微熱

 
 
 「はーっ、いい湯だった! おっコウ、来てたんだ」
 
部屋に居ないと思ったら、香澄は風呂から上がってきたところらしい。
せっけんの匂いがふわりと漂う。
「香澄、部屋に鍵を掛けないと無用心だって前から言ってるだろう」
「だいじょーぶだいじょーぶ、ここって警察の寮だぜ? ドロボーなんて寄り付きもしないって」
言いながら冷蔵庫に顔をつっこんでビールを取り出す。
「ぷはーっ、うまい! やっぱ風呂上りにはビールだよなあ。コウも飲む?」
「いや、僕はいい」
 
あ、そう、まあ明日も仕事だしなあ、などとと呟きつつ横に来て座る。
リモコンでテレビのチャンネルを変えながら缶ビールをあおる。
そのたびに上下する香澄の咽仏から目が離せない。
部屋に入って来たときには判らなかった、せっけんの香りに混じる香澄の汗の匂い。
 
 
「あっ、なにすんだっ」
突然缶を奪われた香澄が抗議の声をあげる。
「もう、やっぱコウも飲むんじゃんか。自分で新しいの取っ…」
いきなり深く口づける。
最初からそのつもりの、誘うキス。
舌を差し入れてビールの苦さを味わってから、目を開けてみる。
間近にある香澄の目が、驚いて丸くなっているのが可笑しくて、少し微笑った。
 
 
 
 
「その…やるわけ?」
答えずにベッドに横たわる。
何故かは解らないけれど直ぐに香澄が欲しかった。
 
いま、すぐに。
 
服を脱がせて胸を愛撫しようとしていた香澄を制して言う。
「香澄、もう、入れて欲しい」
「ええっ、もう? 大丈夫なのかそれって」
返事をするのも惜しくて頷く。
「じゃあ、ジェル…」
「いいから」
香澄は一瞬不審げな様子を見せたが、僕の顔をじっと見たあと、少しずつ入ってきた。
腰がぐうっと沈んで、香澄の重さを感じる。
「大丈夫? コウ」
「ん…」
香澄が僕を気遣って揺らすように動く。
僕は繋がっている部分にちりちりと残る痛みを無視しても香澄が欲しくて、自分から腰を打ちつけていった。
 
「っ…コウ…」
香澄の息が上がって、髪の先から汗の雫が落ちる。
彼が自分の快感だけを追うように動きはじめる、この瞬間が好きだ。
「はぁっ、はっ…うっ……ん!」
 
抱きしめていた背中が大きく痙攣して、香澄がイった。
ずるりと抜き出す感覚に鳥肌が立つ。
湿った体が横に倒れこんでくると同時に香澄の手が絡みついてきて、荒々しく上下に扱かれる。
 
あ、声…。
 
そのことを意識したかしないかぐらいの素早いタイミングで香澄に口を塞がれた。
「ん…む……っ」
カツッ、と歯が当たる音がひどく鮮明に聞こえる。
 
 
―香澄…。
 
   

 

「あー、やっぱちょっと腫れてるっぽい。コウ、痛くなかった? なんか塗っとく?」
 
…香澄がいろいろと尋ねるのに、頷いたり首を振ったりして答える。
「風呂の後のほうがいっか。けどその風呂が問題なんだよなあ。それよかタオル持ってきたほうがいい?」
…ごめん、香澄。
今日は無理矢理つきあわせてしまった。
「とりあえずコウの部屋行って服とってくるな。鍵借りてっていいよな?」
香澄は簡単に身支度を整えると、廊下へとつづくドアに向かって歩いて行く。
「あー、オレ後でもっかい風呂入ろうっと」
 
パタン、とドアが閉まる音がした。
 
 
 
視線の先には飲みかけのビール。
缶には水滴が付いて、底に小さな水たまりを作っていた。

END