マジックミラー


過去の記憶は、マジックミラーだ。

その向こうでは、炎の中で死んでいった人たちが
狭く暗い取調室に自ら閉じこもっている僕を、じっと見つめている。
僕が、自分とあの男の何もかもを始末してしまうのを、待っているのだ。



ある日突然、その部屋に、香澄が入ってきた。
陽気な挨拶とともに、僕が鍵を掛けていたつもりのドアを、たやすく開いて。

彼が、あの時の子どもだったとは…

そうか、もう待てないのか。
鏡の向こうの人々が、しびれを切らして、彼を使いによこしたのだ。
僕が、漫然と、のうのうと
あの頃と同じく最低のまま、ここにこうしているものだから。


しかし、香澄は、恐慌する僕を、捕まえて、殴って
そうではないと叫んだ。

そして、壁に嵌め込まれた鏡を指差す。

そうか、コウは知らなかったんだね。
あれは、向こうから見たら、ステンドグラスになってるんだよ。
どんなに綺麗か、教えてあげようか…

香澄は、それに象られていた僕に会うために、再び地下への扉を開けてここまで来たのだと言った。
うん、本物の方が、やっぱりずっと綺麗だ、と笑う。


彼の笑顔が、僕と、この部屋を、眩しく照らす。
その光が、向こう側の僕をも輝かせるとしたら
それも悪くない、と思った。



END