淫夢


 高中は黒羽の白い身体を組み敷いて、彼の中に痛いほど張り切った自分のペニスを挿入した。
まるで女のように、黒羽のその部分が、自分のモノを呑み込んでいく。
身体の下の黒羽が小さく声を漏らした。
そのまま腰を動かして彼の中を探ると、吐息が甘く吐き出され、動きに反応して、悩ましい声が唇から漏れる。
息が弾み、上気した身体が乱れ始める。

これは女だ。
そう思う。

俺に突っ込まれて、口を開けてよがっている。
その口にも、後で突っ込んでやる。
普段考えないような淫らな行為が頭に浮かんできて、自分のものが今までにないくらい硬く太く、張り切っていくのが解る。
そのでかいので揺さぶってやると、黒羽は悲鳴のようなあえぎ声を出した。
ヘンタイだ。
だが、男を抱くなんざ最初からヘンタイ行為なんだ。
だからいっそのこと、何をやってもいい。
普段女にはしないような、いやらしいことをしてやる。
悲鳴を上げて脚腰たたなくなるくらい、何度も何度もやりまくってやる。
ケツに突っ込んで、尻を振ってよがらせたら、次は口の中に出してやる。

暴力的な衝動と男の支配欲が俺を気持ちよくさせる。
こいつが俺の下で、よがって屈服している姿が自尊心を満足させる。
恐ろしく綺麗で優秀な男が、俺に突っ込まれて這いつくばっているのだ。
しかも、感じてやがる。
自分から腰を振って、しがみついてくる。
ヤツの中が熱く緊く蠢いて、俺のモノを締めつける。

そんなにいいのか。
男のペニスがそんなに好きか?
俺に犯されて、感じてるのか。

快楽を求めて蠢く白い身体は、まるで隠花植物のように、儚げで、そして淫靡だった。
淫らなセックス。
ガキを造るためなんかじゃない。
愛とかいたわりとか、女が時々口に出す、そんなものも何処にもない。
突っ込んで射精して、よくなるだけのセックス。
自分の中に潜む淫らな欲望が、ずるずると引きずり出されていく。

女房とも商売女とも出来ないセックスが、そこにあった。
俺はヘンタイだ。
そう思う。
男に突っ込んで、相手が喜んでいることに興奮している。
だがそう思ってしまうことは、罪悪感よりむしろ、開放感を自分に与えた。

ぞくぞくぞくと、背中に寒気のような刺戟が走る。
今まで感じたことがないような快楽と共に、射精感を感じる。
何度も、何度も。
思わず声をあげて、あいつの中に放った。
10代のガキみたいに。




阿呆らしい、と思う。
女房が実家に帰っていて、たまたまいなかったのが幸いだった。
でなければ恥ずかしくて、どうしていいか解らなかっただろう。
情けない。
夢精した下ばきを、風呂場で洗う。

バカバカしい。なんてバカバカしい夢を見たんだ。
中学生じゃあるまいし。
俺は一体幾つになった。余り言いたくはないが、それでも中年だと、世間では言われてしまう、そんな歳なのだ。
セックスなど目新しくもないし、特別興奮することでもない。
その筈だった。
だが、夢の中の快楽を思い出すと、身体が疼く。
あんな風に激しいセックスは若造だった頃のあの精力を思い出させる。
そんな風だったことなんて、本当にしばらく無かったじゃないか。
こんな夢を見てしまったことに自己嫌悪を感じたが、同時にどうしようもない渇望も覚えた。
あんな風にセックスする。
衰えることもなく、限界もなく、相手を何度でもイカせることができる。
相手がたとえ男でもだ。
夢の中の黒羽の顔は、恐ろしく淫靡だった。
高中は思わず喉を鳴らす。

男は誰でもそうだが、若い頃の性欲に執着を持っている。
男として、まだまだ衰えているとは思っていなかったが、少なくともセックスに関して、あの頃と同じ熱は、もう感じられない。
あんなに興奮したことも、あれだけ硬く張り切ったことも、久しくなかった。
男が、相手だったのに…。

ひどく曲がった感情が湧き上がる。
俺はホモじゃねえ。
クソ野郎のオカマじゃねえ。
黒羽高だからだ。
あいつのあの顔。女みたいな白く美しい貌。
誰かを誘っているような唇。首筋にかけられた息。
黒羽高が、姦されたいという顔をしているんだ。
だからオレは姦してやったんだ。
夢の中だから好きにやったのだ。
本当にやりたいわけじゃない。

ただ…。
淫夢はひどく魅力的だった。
現実で絶対出来ないセックスをする。
これは別に自分の情けない願望なんかじゃない。
そうは思う。
だが、夢を見て楽しむことは、誰にとっても罪ではなかった。
誰も自分の夢のことなんか知らない。
だから、少し楽しんだっていいじゃないか。
それに黒羽高が、俺にこんな夢を見せるのだ。

高中は心の底で、責任を半分黒羽に押しつけて、それで少しだけ安心した。



淫夢はそれから、何度か高中を襲った。
だが高中は、それを薄暗い気持ちで楽しんだ。
夢の中で、あの男を何度も組み敷いて、這いつくばらせて自分の思う通りに姦す。
それは楽しかった。
夢の中の自分は、何処までも若く、精力に満ちあふれている。
黒羽は脚を開いて、俺を受け入れて、何度も絶頂に達する。
そういう欲望が自分の中にはあるのだ。
どうしようもなく、否定しがたくあるのだ。
枠を外された欲望を、想像の中で黒羽にぶつける。

俺は…、ヘンタイだ。


ある時から、本物の黒羽の顔を、まともに見ることが出来なくなった。
それでも夢の中では、黒羽のイッた顔を満足げに見下ろす自分がいる。
その脚の間に、もっと精液をぶちまけてやりたいと思う。

俺はヘンタイだ。

そう呟きながら、それでも高中は、夢の中で自分を誘う白い身体を渇望した。

END