Face-to-face



「なんかさあ、平日の昼間っから二人っきりで部屋の中って、背徳的な気がするよな〜」
「じゃあ、やっぱり戻って仕事をするか?」
「ええっ? ラブホに入ってシャワーまで浴びといて、何もしないで出ようって言うの? そりゃーもっと道理から外れた行為じゃないか」
軽口を叩きながら、白鳥はベッドに座り、既に待っていた黒羽に顔を寄せて、キスをした。
「いいじゃん。久しぶりに、ちょっとゆっくりしようよ。それに昼間と言ったって、まだ明るいってだけだし。すぐ夜になるさ」
「香澄、ゆっくりしたいのか早く夜になって欲しいのか、どっちだ?」
白鳥の髪を撫でながら、黒羽はクスクス笑う。
「オレはねえ、早くコウとエッチしたいだけ」

言うなり白鳥はベッドに飛び込んだ。
シーツがばさばさと音をたて、スプリングが軋む。


ベッドの上で、固く抱き合ってキスをする。
深く、浅く、しだいに情熱的に、舌を絡ませる。
キスで身体が熱くなり、欲望の印は忠実に反応し始める。
白鳥は黒羽の昂りを感じて、その中心に手を伸ばした。
「……んっ…」
黒羽の身体がかすかに震える。
「コウってさ、感じやすいよな」
白鳥の指は、すっかり硬くなった黒羽自身を軽く握り、根本からゆるゆると刺戟した。
「…あっ。だ、誰だって、そこを触られたら、感じ…るさ」
「そこって、どこ? コウ」
「香澄…あのな…。ん、ぁっ…」
「どこがコウの言う『そこ』かな〜? この辺? んん、それとも、もっと奥とか?」
白鳥の指が陰りの奥の方に潜んでいくと、黒羽の身体がびくりと跳ねた。
「…あっ。香澄っ。無理矢理、指……っ」
黒羽の頬に朱が散り、何かに耐えるように、唇がきつく結ばれる。
「はっ…。香澄、指。あまり、遊ばな……。いっ…」
「唾液だけじゃ、奥までは難しいか〜。やっぱ、ローション使おう」

ずるりと指が抜かれると、黒羽の身体の緊張がほどけた。
今度は逆に黒羽の手が、香澄の勃ちあがったものに伸ばされる。
「コウ、ちょっと待ってよ」
「香澄、触らせて…」
「いや、今日はオレがコウの身体をゆっくりいじるの。だから、ダメ。いっつも一回くらいは先にオレがイカされちゃうんだから。せっかく時間があるんだから、色々試さなきゃな〜」
白鳥はラブホテル備え付けのローションを、たっぷりと手に取った。
「これさ、中だけじゃなくて、コウの身体にあちこち塗っちゃダメ? ヌルヌルになってローションプレイとか」
「それは……。風呂とかでしたほうがいいんじゃないかな。洗い流せるし」
「うーん。そう? そっか、じゃあ後で、風呂でもしようぜ」
「香澄、そんな何回も……するのか?」
「うん、やりまくり…の予定っ」
白鳥は笑いながら、再び黒羽の身体に覆い被さっていった。

「なあ、コウ。コウはさ。正常位と、他の体位、どれが好き?」
耳たぶを軽くかみながら、囁く。
もちろん片手は、黒羽の下半身に伸ばされ、指が中に何本か入り込んでいる。
ローションのおかげで、指は抵抗なく、狭い奥にも入り込みつつあった。
出し入れされる度に、黒羽の息は早くなっていく。
「あ……、はっ…。かす…み。なに? なんの、話?」
「いや…。せっかくだから、ちょっと研究してみようかと思ってさ。やっぱ、同じやるなら気持ちいい方がいいだろ?」
「もう…気持ち、いいよ」
黒羽はうっとりと瞳を閉じる。
閉じた瞼に、白鳥の唇が軽く重ねられた。
「香澄とならどういう体位でも好きだよ、とか言うのは無しな」
「なに? ホントに、答え…なくちゃ、いけないのか?」
「うん」
「か…香澄こそ、どういう体位が気持ちいいんだ?」
「ええ? 質問してるのオレだぜ」
「だっ…て。僕のほうも。し、知りたいじゃないか」

「あ、えーと…。うーん。楽なのはバックだけど」
「僕が、上の時も楽だろう?」
「あれは楽すぎ。それにいつも下なのに、ベッドでも下ってのがあんまり好きじゃない」
「下?」
一瞬首を捻ったが、すぐに解った。
白鳥は自分の身長が黒羽より低いことを、常にどこかで気にしているからだ。
「でもあれかな。体勢は確かにちょっと大変なんだけどさ。やっぱり正常位がオレは好きだな〜」
「何故?」
「おい、今度はコウだよ。もともとオレの質問じゃん。どの体位が好き?」
「正常位」
まったく考えることもなく、黒羽は答えた。
「オレが好きだって言ったからってのは無しだよ」
「そうじゃ…ないよ」
「どうして? それが一番気持ちいいの? コウは」
「香澄が、僕の身体で感じてる顔が見られる」

黒羽の言葉に、白鳥はいきなり真っ赤になった。
差し込まれた指の動きもピタリと止まる。
「うん……? 香澄。どうした…んだ?」
「ああ、いやその、ええーと。その理由は、なんとなく恥ずかしい…かなって、思ってさ」
「でも、じゃあ香澄は、どうして正常位が好きなんだ?」
「あう〜」
「僕に聞いておいて、そっちは答えないっていうのは無しだぞ」
「う〜ん。えーと。コウのイク顔が……見たいから」
「ああ」
「あ、ああって、コウ。オレは恥ずかしかったのに、コウはどうって事ないわけ? 恥ずかしいのはオレだけ?」
「イク顔を見ると、達成感があるんだろう?」


大抵の男はそうだ、という言葉を黒羽はかろうじて呑み込んだ。
自分が多くの男と寝てきたことを、もちろん香澄はよく知っている。
だが目の前で堂々と口に出す事ではないだろう。
もっとも今のコメントも、あまり口に出すべきものではなかったようだ。
白鳥はあきれたような声を出した。
「達成感って…。そりゃさあ…まあそれもあるんだろうけどさ。コウって時々、すっげえ即物的だよな」
「即物的なのが、悪いか?」
「まー、時々はね」
「じゃあ、こういうのはどうだ?」
黒羽は薄く笑って、唇を舐めた。

「香澄がイク顔を見ると、僕はすごく興奮する」
「ええ? ホント?」
「本当。だから早く、そうなろう。香澄が僕の身体でイクところが見たい」
黒羽の手が白鳥の下半身にすうっとのびる。
「うわ…コウ。あのさ…」
「香澄も、僕がイク顔を見たいんだろう? だから、もう指じゃなくて…。こっちが欲しい」
完全に勃ちあがった香澄のモノに、黒羽の指が絡まり蠢く。
「時間はあるから。だからどんな体位でも、何度でも。僕の中に香澄の印をつけて」
黒羽は囁きながら脚を大きく開き、白鳥の腰に絡ませた。

「香澄、挿れて。…出来るだけ激しく」

 

 

望み通り、黒羽の身体はベッドに組み敷かれ、足を高く抱え上げられた体勢で一気に刺し貫かれた。
「ああっ、あっ。あああっ」
思わず、大きな声が出る。
さんざん指でイタズラされ、慣らされてはいたが、それでも香澄の大きさを一気に打ち込まれると、一瞬息が詰まった。
「香澄…ああ」
「大丈夫? 動くよ」
黒羽の返事を待たずに、力強い抽送が始まった。
ベッドがギシギシと、音をたてて軋む。
「ああっ…。あっ。香澄。いいっ…」
黒羽の大きな喘ぎ声に刺戟されて、白鳥の身体はますます激しく黒羽を責めたてはじめた。
「いいっ…。すごい。いいよ。香澄っ…」
突き上げられ。引き抜かれるたびに、射精感が押し寄せる。
今すぐにでもイケそうで、でもなかなかイケない、狂おしい感覚。
深く打ち込まれると、ぞくぞくした快感と共に、勝手に声が唇から漏れ出た。

「香澄…かすみっ」
名前を呼びながら、彼の広い背中に手を回し、しがみつくように指を這わせる。
香澄の荒い息。滴り落ちてくる汗。
彼の体重と、自分の中を力強いリズムで熱く突き上げてくる、彼の欲望。
何もかもが自分の身体と思考を溶かし、次第にただ感じるだけの肉の塊に変えていく。
「コウ、好きだよ、コウっ……」
下半身の激しい行為と、耳元で囁かれる甘い声。
その二つに翻弄されて、どこまでも溺れたかった。
香澄の動きにあわせて、自らも腰をうごかす。
より深く彼を受け入れ味わうため、更に背中に縋り付く。

抱きしめられたかった。
きつく、酷く。
奈落の底に落ちないように。
抱きしめて、貫いて、満たして欲しかった。
香澄……。
僕は誰とでも寝る男かもしれないけれど。
でも、香澄だけが僕をこんな風に犯しても構わない。
香澄の身体が、僕を欲しいと言っている。
それが、ひどく嬉しい。
気持ちいいよ。どうにかなりそうだ。
ずっと香澄の身体を、肉の熱さを感じていたかった。
香澄が与えてくれる快楽を、僕は貪欲に呑み込み、頭は真っ白になっていく。



「コウ、オレ、ダメ。もうっ…」
「香澄、僕の……中で。香澄っ」
白鳥は大きく突き上げると、背を反らして身体を震わせた。
「うっ…。う。あっ…」
白鳥のイク顔を、陶然と下から見上げて、黒羽も快楽に震える。
いいよ、香澄。僕の中で射精して。
香澄が僕の身体でイクのが嬉しいから。
そして、ひどく欲情するから。
君が僕の中でイクと、僕はもっともっと欲しくてたまらなくなる。

「はあっ…。はあっ。あぁっ…」
ひとしきり喘いだ後、香澄の手が伸びて黒羽の昂りに触れた。
「コウ…」
上から優しく覗き込む、上気した顔。
「今度はオレが、コウのイク顔、見るね」
まだ深く貫いたまま、香澄の指が愛撫をはじめる。
「香澄…」
触られた瞬間、射精そうになるのを、黒羽は必死に堪えた。

もう少し、触って。
僕の身体を、好きなようにいじって。
僕がイッたら、香澄はきっと興奮する。
そうしたらまた、抱き合おう。
今日は時間が、たくさんあるのだから。


「次、どんな体位でする?」
耳元で囁かれた言葉に、黒羽は酔ったようにため息をついた。
香澄の指と手のひらが、一番敏感な部分を擦りたて、その快感に、ほとんど声は出せない。
息だけが、次第に早くなっていく。
「はっ……、香澄…。もう…ダメ。もう、僕もっ…」
「なあ、コウ。どんな体位でしたい? 後ろから入れようか?」
黒羽は切れ切れの息の中、小さく首を振った。

「ううん。香澄。…正常位が…いい。だっ…て。また……香澄が、イク顔を見たい」
「その前に、コウがイク顔、オレに見せてよ」
香澄は優しく笑って、指の動きを早くした。
「……ああっ…んっ」
「コウ、すごい、いい顔…」
「あああっ……」
身体が震え、快感が痺れるように背中を走る。
香澄の手の中に、黒羽は射精した。
手のひらからこぼれ落ちた白濁が、自らの身体に飛び散る。

荒く息をつきながら薄く瞼を開くと、香澄が興奮して喉を鳴らすのが見えた。
黒羽を攻めたて続けた欲望が、身体の中でまた大きく硬くなり始める。
黒羽はそれをもっと奥に呑み込むべく動いて、ねだった。
「香澄……もっと」
応えるように、香澄の腕が黒羽の腰をぐいと掴む。

再び始まった力強い抽送に、黒羽は快楽の声をあげた。

END

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