地獄より熱く、愛より甘く

scene2

「ほら、立って、コウ」
優しい声で囁きながら男はコウの腕を取って引き立てた。
「う…」
好きでこんなところにしゃがみ込んでいるわけじゃない。
道行く人が、視線を投げていく。
『酔っぱらいかな。昼間っから』『具合が悪いのかしら、あの子』
耐えられない。
人と視線を合わせないよう俯いたまま、小さく呻いてようやく立ち上がる。
「困った子だな。もう少し我慢できないのかい」
コウは首を振る。もう、一歩だって歩けそうにない。
「しょうがないなあ」
男は笑って、タクシーを停める。


「コウがいけないんだよ。ちゃんと言うとおりにできなかったから」
両腕は背中でくくられ、足は一メートルほどの棒の両端に縛られている。そのまま俯せにベッドに転がされて、膝を立てられた。
あらわになったその部分に押し込まれたものが、コウを責め続けている。
「抜いて欲しい?」
コウは、目を瞑ったまま頷く。
そんなこと訊かれるまでもない。少しでも早くその苦痛から逃れたい。
でも、恥ずかしくてとても顔を見られない。
「挿れたままコンビニに行って雑誌を買ってくる約束だったろう」
「だからとてもできないって、ぼくは…」
掠れた声で哀願する。
「だめだよ。そんなこと言ったって。こういうの、好きだろう? ほら、ちゃんと、勃ってる」
男はくすくす笑いながらコウのモノを弄ぶ。
触られると、快感が走って、思わず声が洩れた。
「ほうら。気持ちいいんだろ。こっちはどう?」
身体の奥までねじ込まれ、中を抉り続けていたものが引き出される。
その感触にコウは悲鳴を上げる。
まるで、内臓ごと引きずり出されるような苦痛。

それすらも何処かで快楽に変わる。
動きを封じられた身体を捩りながら、コウは痛みと快感に我を忘れた。


 
ずっと、好きだった。
両親が生きていた頃から、大好きな『お兄さん』だと思ってた。
孤児になってからは、頼れるただ一人の人、そして…。
特別な人――だった。

だから、「好きだ」といわれたときは嬉しかった。
自分一人が、彼を好きなのだと思っていた。彼の方も同じ気持ちを持っていてくれたなんて、考えもしなかった。
いけないことだと、ずっと思っていたから。
彼への気持ちは一生このまま抑えつけておかなければならないのだと。
そう、ずっと思っていた。
だからいいのだと解った時。隠しておかなければいけない気持ちを受け入れてもらえることがあるなんて、信じられないくらい幸せだった。

ただ何かに縋りたかった。
そういう気持ちもあったことは否定できない。
一人になるのは怖かったから。本当に怖かったから。
だから、心も身体もかけて愛し合える事に縋りたかったのかもしれない。
でも、好きだという気持ちは本物だった。
身体で愛し合うことは、コウに新しい世界を開いてくれた。
でも触れ合うことの幸せは、一人になることの孤独を際立たせる。
縋り付いた腕を放すまいと、コウは言われるままになんでもした。

けれど男の要求することは、コウの想像もつかないことばかりだった。
痛いこと苦しいこと恥ずかしいこと。
それが全て快感に変わるのだと、男は執拗に教え込んだ。
ゆっくりと、時間をかけて。
コウの身体を馴らし、その心が彼に傾いてゆく様を楽しんだ。

「好きだから…」
「うん」
コウは頷く。
身体の中に異物を入れながら、這いつくばって男の下半身を探る。
「声は、出したらダメだよ」
男はくすくす笑いながら、コウの喉の奥に自分のモノを押し込む。
息が詰まりそうになりながら、それでもコウは受け入れた。
「いい子だね」

男の声が甘く響く。

すきだから…。
かれが、好きだから。

呪文のような言葉に、コウは心も体も縛られていった。

END