Snow sweet night

「う〜ん」
裸のコウを前にして、オレは唸っていた。
「どうした、香澄?」
不思議そうな顔をしてコウがオレを見上げる。
ベッドに転がり込むなり即座に襲いかかっているオレが、今日は迷っていたりするのが不審だったらしい。
「いや〜、だからさ。こんな風にすぐエッチに突入しちゃうから、悪いんじゃないかなあって、ちょっとだけ思うわけよ」

もちろんエッチはいつだってしたい。
だけど前にも思ったけど。
こうやって何かゴタゴタする度に、即エッチになだれ込んじゃうと、やっぱり色々とごまかされちゃうような気がするんだよなぁ。
エッチしてなあなあになる前に、とりあえず今回どの辺が良くてどの辺が拙かったか、ちゃんと話し合っておく必要があるんじゃないだろうか。

…などと冷静なことを考えてはみるが、血液は既に下半身に集まってきている。
頭が働かなくなるのも、そう遠い事じゃないだろう。
だから獣になっちゃう前にだな…。

「香澄、明日も朝から仕事がある。僕は早く出かけなくてはならないから、あまり時間がない」
「コウ、言いたいことは解るけど、その言い方ってどうだよ。…もしかして、さっさとやってちゃっと帰ろうとか思っているんじゃないだろうな」
「…いや、それは…。そんな事はない」
上目遣いにオレを見るな。
ていうか、否定したけどちょっと思ってるだろ。
いつもそんな風に身体でごまかされているから、オレとしてはだな…。
なーんてぶつぶつ呟いていたら、いきなりコウが上半身を起こしてオレに顔を寄せてきた。
綺麗な顔が目の前に…と思うまもなく唇を奪われる。

「…ん。うぅん……」
もちろんオレはあっという間にごまかされた。
だってコウの唇だよ、唇。
柔らかいそれを、吸って、舌を絡ませて、もっと深く唇を重ねる。
あああ…最高。
一週間、これ無しでやって来たなんて、信じられない。
オレの身体は、たちまち熱くなっていった。
本能のまま押し倒して、唇でコウの白い肌のあちこちを探っていく。
「あ…香澄…」
掠れた声が耳元で囁く。

もうダメ、もういい。
理屈を整えてから、なんて結局やっぱり無理ムリ。
こんな風になっちゃったら、どうやったって身体が優先。
一週間ずっと、押さえ込んで我慢してたんだ。
欲しかった身体が実際に目の前にあって、自制なんてできるワケないんだよ。
白い肌、無防備な喉。
ポツリと色が付いた胸の突起に、オレは夢中で舌と唇を滑らせていく。
コウの喘ぎ声に、オレ自身も昂っていく。

コウ、好きだ。
この身体が好きだ。
すごくいい。
白い肌も、平らな胸も、細い腰も。
シーツを握って、耐えているような表情も、何もかもがオレの劣情を誘う。
愛してると思うけど。
同時に純粋な欲望に、身体が疼く。
コウ…。今オレ、コウの身体が欲しいよ。
抱きたい。欲しい。
コウの中にオレを入れて、揺さぶって啼かせたい。

荒い息をつきながら、オレはコウの身体を抱きしめ、熱い肌を味わう。
内腿に手をすべらせてコウの中心を握ってしごく。
「ああ…んん…かす…み」
手の中で硬く勃ちあがっていく感触を楽しみながら、もう片方の手でコウのいいところを探る。
「ああ…やっ…」
コウの背が反り、指が、きゅっとオレの肩を掴む。
「指、2本じゃ物足りないよね?」
コウは微かに首を振る。目を瞑って、快感に耐えるような、いい顔。
「もう少し…慣らすから」
いつものように、余裕なんてもちろん無かったけれど、でもオレは、できるだけコウの身体を娯しみたかった。
今オレの腕の中にあるよな?
コウの身体全部。白い肌も、柔らかい髪も、綺麗な体、全部ここにあるよな。
ゆっくり、じっくり、全部確かめたい。

でもどうやら、コウの方が限界に近いみたいだった。
「…もういい。もう。香澄。はやく…香澄が…ああっ」
コウの身体がびくりと跳ね上がる。
出し入れしているオレの指が、いいところを触ったらしい。
「香澄…」
喘ぎ声が、泣いてるみたいに聞こえる。
「香澄…はやく。欲しい。早く、挿れて…」
オレは応えずに、勃ちあがったコウの中心を舌で舐め上げた。
「んん……ああぁっ」
ひときわ大きな声。さすがにオレも我慢がきかなくなってきた。
コウの足を高く抱え上げ、慣らされたそこへ自身の先端をあてる。
コウの濡れた瞳に期待の光がちらりとよぎった。

オレが欲しいんだよな。
それは、そういう瞳だろう?
コウのえっちな身体、オレ好きだよ。
オレがコウの身体を感じたいように、コウもオレを感じたい。
そうなんだよな。

ゆっくりと腰を進める。
挿入はいつでもゆっくりだ。
コウのあそこがオレの怒張したモノを先端から呑み込んでいく、その感覚を感じるために。
熱く締めつけてくるその感触を、全部感じるために。
「は……あぁぁ…」
コウが眉を寄せて、ゆっくりと息を吐く。
それに合わせるように、オレは自身を奥まで全部コウの中に収めた。
一つになるって言葉、使い古されてるけど、でも解る。
足を抱え上げて、オレはコウの中を探る。
最初はかきまわすようにゆっくりと。
それからリズミカルにコウの身体を揺さぶっていく。

「ああっ…はっ。ん……」
「コウ、コウ…コ…ウっ…」
ベッドが轢む音に、だんだん抑制がきかなくなってきたオレは、次第に激しく腰を打ち付けていった。
「んっ…うん…」
コウはけっこう荒っぽいのも好きだ。
感じてる証拠に、コウのアレの先端から透明な雫がこぼれる。
もしかしてコウ、イキそう? だったら…
オレはコウの片足だけを肩に担いで、深く身体を入れた。
その体勢で斜めから突き上げながら、勃ちあがって震えているコウのものをぎゅっと握る。
「…あああああぁっ!」
いきなりの刺戟に、耐えられなかったらしい。
コウの身体が跳ね上がって、白濁が飛ぶ。

「あっ…あ、香澄。いい……かす…み」
オレの名前を呼びながらイク姿、最高にやらしいよ、コウ。
手のひらの中に溢れるそれを、オレはコウのペニスに塗りたくって、ぬるぬるにした。
もちろんこれから更にイイ顔を見るためだ。
「全部でてないよね、コウ」
上に覆い被さる格好になって、耳元で囁く。
コウは目を瞑って喘いでいる。
オレ自身も、そろそろ限界が近い。
コウがイク時にぎゅうっと締めつけてきたからだ。
まだ、コウの中はひくついている。手の中のものも、力を失っていない。
「すご…いいよ、コウ。最高」

イク時のコウの身体を一度味わってしまったら、もうやみつきだよなって思う。
タイミングの問題だと思うけど、一緒に昇天しちゃわなかったのが不思議なくらいだ。
「ああっ…ああ。……あっ。香澄…すごい。かす…み」
ぬるぬるの前と後ろを責めたてられて、コウはもう一度イキそうだった。
今度はもちろん、オレも一緒に。
「かすみ…」
ベッドが激しく轢む。
「コウ、好きだよ」
せつなげな、いい顔。
この顔が見たくて、多少姿勢が苦しくても、オレは向かい合う格好でコウを抱く。
「コウもオレを見てよ」
「かす…み?」
伏せられていた睫毛がまたたき、薄く瞼が開けられる。
形の良い唇が、幸せそうにほころぶ。

オレが気持ちいい時は、コウも気持ちいい。
だってオレ達、身体はピッタリなんだから。
そうだよな、コウ。

コウが喘いで身体を震わせる。
同時にオレも、コウの中に精を放った。

 

 

「ずっと…考えてた」
まだ整わないままの息を、オレの腕の中で吐き出しながら、コウが呟いた。
「んー? …何…を?」
オレはぼけーっと応える。
何たって今、オレときたら、コウを抱いてやっぱりスッキリしちゃって、何もかもどうでもいいじゃないか〜♪ 状態のふわふわ幸せモードになっているのだ。
これがいけないんだよ、なんて頭の隅でなけなしの理性がわめいているけど。
でもオレの頭の中にはピンクの靄がかかっていて、世界はきっといい感じで明日も明後日も動いていくんだぜ〜♪ とか思っていたりする。
こういうの、一種の躁状態っていうのか?

「香澄に逢いたくて…」
「…うん」
「会えなくて寂しかった」
「ああ…うん」
「そんな風に寂しかったら…。そうしたら僕は、他の相手を探すのだろうか」
「えっ!?」
オレは目を見開いた。
ボーッとした幸せ状態から、いきなり覚醒する。
「考えてたんだ…」
コウは目を瞑ったまま、息を吐いた。

「香澄に言われた。自分はただのセックスの相手なのかって」
「…えーと、いやそれは…」
売り言葉に買い言葉ってヤツで…。
ムシャクシャしてたから、普段脇に除けていたコウへの不満が、ちょこっと溢れ出しちゃったと…言えないことはないけど。
「最初から、ただのセックスの相手じゃなかった」
「えっ…そうなの?」
「僕に与えられたパートナーだった」
「…ああ、あ。そ、そういうことね」
ちょっとガッカリ。
告白めいた言葉が来るのかと期待しちゃったよ。
「パートナーとセックスしたいなんて、きっと僕は変なんだと思った」
「…う」
「普通しないだろう?」
「し…しないかもね」

いやいやいや、男女だったら充分あり得るし、どちらもゲイだったら、それもありうるぞ。
じゃあオレとコウの場合は、えーとえーと。
コウはゲイでオレはそうじゃないけど、でも今は充分コウオンリーのゲイだと言い切っちゃってもいいし。
つまり、そういう事はあってもいいんではないでしょうかっ!
心の中で鼻息荒く理屈を組み立ててみるが、もちろん心の中の声だからコウには聞こえない。

「でも香澄から、恋人だと言われて」
い…言ったかな、オレ。何度も心の中では思ったけど、口に出してちゃんと言ってたか?
「なるほど、そういう事もありかと思った」
理屈っぽいんだよな、コウの奴。でもまあ、納得してるんなら、いいか…。
ていうか、どこへこの話って繋がっていくわけ?

「僕は人好きのしない男だから、香澄と上手くやれるか心配だった。セックスで上手くいくなら、パートナーとセックスするのが変でも、恋人だというなら。それでいいと思った」
「コウ、あのさ。その理屈をそのまま続けると、こういう結論になったりしないか? オレは単なるセックスの相手ではない。なぜならパートナーだから。上手くやっていかなくてはいけない相手だから。
普通パートナーはセックスする相手ではない。したいと思う自分は変なのだろう。でもオレが恋人だって言うから、それには納得している。
…ええ〜と。ビミョーに不愉快な気がするんですけど、これでOK?」
「うん」
うんとか言われちゃったよ。どうするよ、オレ。

「僕は香澄とセックスしたいと思っていたんだ。ずっと、きっと最初から思っていた。パートナーだったら、普通はするべきじゃないと思う。ただ欲望を満たしたいなら、僕は外で誰か適当な男を探して処理するべきだったんだ。でも…」
コウは束の間、口を閉じる。
「でも…。僕は香澄とセックスしたかった。今だって、時間がもったいなくて。香澄は何か僕に言いたいことがあったんだろう? なのに…我慢…できなかった」
「…えええと…」
オレは戸惑って頭を掻く。積極的なキスは、そういう事?
まあその。そ、それはちょっと嬉しいかなあ、…なんて。

「誰もいない」
「え?」
「外に探しに行くべきで、香澄も近くにいない。だったら他の男と寝ればいいんだ。でも…」
コウはそう言ったきり黙り込む。オレは思わず聞き返してしまった。
「コウ、でもの…続きは?」
「君の…ところに来た」
うん、確かにオレの所にいるな。
「香澄がいなかったら、他のヤツと?」
コウはきつく瞼を閉ざす。
「誰と?」
「コウ…」
「誰もいない」
声は次第に小さくなっていく。ほとんど独り言に近いだろう。
オレはコウの顔に耳を寄せた。

「誰も…いない。香澄の事ばかり考えていた」
「コウ、あのさ」
「ずっと会いたいと、そればかり思っているなんて。……僕はどこか変なんだ」
あー、もう、面倒くさい。
オレはぎゅーっとコウを抱きしめてしまった。
きつく閉じた瞼とか、口元に、思わずキスまで散らしてしまう。

やっぱすげえズレてるよ、オレ達。
だってコウが苦しそうなのに、オレ今メチャメチャ嬉しいもんな。
コウが向こうで、オレの事ばかり考えていたって?
それのいったい、どこがいけないわけ?
まったくよく解らないことで、コウは勝手にくどくど悩む。
言い方は悪いし、言葉は全然足りない。
でもまあ、そこが可愛いわけだよな。
『面倒くさい』が『可愛い』って思えるうちは、ラブラブカップルだよ、ホント。



「ごめん…」
よく解らないんだけど、コウはオレの腕の中で謝っていた。
「どうにも我慢できなくて、勝手に会いに来た。香澄は楽しんでいるんだ。だから僕が行ったら邪魔になる。解っていたのに…」
解ってないよ、コウは。
邪魔どころか、超嬉しかった。
だってオレこそ、ぐだぐだ悩んでいたから。
しかもコウと違って、もっとひねくれてた。喧嘩したワケじゃないとか、電話もかけられないとか、変な意地まではってた。
そのくせコウが向こうで寝る相手を探していたらとか思ったら…。

なのに、オレの事ばかり考えていたって?
オレがどれだけ嬉しいか、コウには解んないだろ。

「コウが変だって言うなら、オレだって変だよ。オレもコウとエッチしたかったものな。最初のキスはオレからだよ。覚えてるよな」
コウはまだ、瞼を閉じている。
オレはもう一度その上にキスをする。長い睫毛が唇に触れてくすぐったい。
「コウがオレの事ばかり考えてて、良かった」
耳元で囁いたけど、コウはまだ瞳を開けない。

うん、コウ。
コウがオレの事ばかり考えていたこと、最高に嬉しい。
オレも、ちょびっとひねくれた形ではあったけど、ずっとコウのことを思っていた。
恋人同士でも、どれだけ愛しあってても、違う人間なのだから、二人それぞれ違うところで楽しむっていうのも正解だと思う。
でもそれは、もうちょっと後の方がいいみたいだ。
今は少しでも会えなかったら、気になって気になって仕方なくなるくらい、ふわふわと目が離せないような関係でいよう。
ぶつかっても、喧嘩しても、会いたくて仕方がない。
お互いのことしか考えられない。

落ち着いちゃうには、まだまだ早いって事なんだよな、オレ達。


だから、オレ聞いちゃう。
メチャクチャ気になるからな。

「コウ。オレの事ばかり考えてたって、どんなことを考えてたの?」
「……」
うーん、口も目も、まだ開けないな。
目はしょうがないとして、オレは無理矢理コウの唇は開くことにした。
無理矢理と言っても、コウはあっさりと舌を絡ませてくる。
「たとえば…オレとこんな風にしたいとか?」
「……ん…」
「それとも〜…こんな風にしたいとか〜?」
「あっ…」
やっと小さく声が漏れる。もちろんここぞとばかりに、オレは押した。
「会いにきても、オレが怒ってるかもしれないとか、そういうのは思わなかったわけ? もちろん怒ってなんかいないけど」
「…思ったけれど」
「けれど?」
コウは伏せた瞼をやっと開いた。
熱を持った瞳がオレを見上げてくる。

「香澄」
「うん?」
「やっぱり…我慢できない。…もう一度」

もちろんオレに異存があるはずなかった。
「オレも我慢できない。も一度コウが欲しい」

オレ達はキスして、そのまま欲情に溺れていった。