太平洋二人ぼっち



 オレ達は遭難していた。
そう、太平洋のど真ん中でだ。

何でこんな事になったのか、という事情は、この際オレは語りたくない。
オレは、オレは、そう。
コウと二人っきりになりたかっただけなんだようー(泣)
海なんか出たことがないコウを強引に引きずり出し、ツテを使って豪華なクルーザーを借りだした。
ちょっと回るつもりだったんだ。
うん、ちょっとだけさ…。
ちょっとだけコウとホントに二人っきりで
(そうだな、3日くらい)
いられればいいと思っていたんだ。

だけど最初のうちは、オレが船酔いでダウンしてしまった。
海なんか殆ど見たことも無いコウが、全然平気ってのはシャクに障るけど、看病してもらえるのはちょっと嬉しかった。
船酔いがやっと治ったと思ったら、もうオレ達は迷っていた。
すみません。
ぶっ倒れていたオレが悪いんです。
申し訳なさそうな顔をするコウを慰める。
大丈夫さ。いくら何でもそんなに沖に遠く出ている訳じゃない。
船も通るし、すぐ帰れるよ。


 …甘かった。
今日でもう一週間になる。
無線とかで連絡取れないのかって?
それは聞かないでくれ。いろいろあるんだよ。ホント…。
雨が一回降ったのでしばらく飲み水には困りそうもない。
魚も一応捕れているので、何とか食ってる。
でもこのまま漂流し続けたら、オレ達どうなってしまうのだろう。
「コウ、ごめん」
「悪いのは香澄じゃないだろう」
「でも、ごめん」
コウは黙ってオレを見つめると、そっとキスをしてきた。

「二人っきりだ」
「うん…」
「誰の事も気にしなくていい」
「そだね」
「好きだよ、香澄」
オレはコウを押し倒していた。

船内にはベッドもあるけど、オレは太陽の下でコウの服を剥いで、何もつけてない姿をじっくり鑑賞する。
「なに見てるんだ」
コウが少し不思議そうな顔をした。
女の子なら恥ずかしがっている所だよな。
オレは首を振った。
「ううん。綺麗だなあって思って」

男の体に欲情する。

コウだけ。
コウだけだ、そんなの。
コウはゲイだから、そうじゃないかもしれないけど、オレにとってコウの体は特別だ。
欲しい。
抱きたい。
一つになりたい。

オレは自分と同じ男の徴を口に含む。
微かなコウのため息が、オレを興奮させた。

 

 

「だからっ。漂流して困ったなあって思ったところで、最初にやるのがセックスかよ! ふつーなのか、それって。漂流してんなら他にやる事あるだろがっ」
双眼鏡を覗きながら、思わず毒づいてしまう海里である。
「いや、どうせするなら体力が残っている今のうちかもしれませんよ」
妙に真面目に答えたのは、隣にいる色の浅黒い、背の高い外国人の男。
「カイリさんだって、あの人と二人っきりで同じ様な状況になったら、しますよネ?」
ニッコリ笑って言われると、その通りなので反論が出来ない。
「オレの場合状況が違う。数少ないチャンスなんだから…ヤルに決まってるだろ」
最後の辺りを喉の奥に呑み込みながらブツクサ文句を言い続ける海里の隣で、男は双眼鏡を目にあてて、歓声を上げた。

「わあ。キレイですねえ、やっぱり黒羽さんは。肌が真っ白で私もあんな風に触りたいです。ああっ、手があんな所に」
「実況してんじゃねえっ!」
思わず怒鳴ってしまったが、実はこの男、某国の政府高官の息子である。
ついでに政府の高官には王族関係者がたくさんいる、というお国なので、当然彼も海里が大嫌いな『高貴な血筋』のお方だ。
こんな男の助けを借りたくはないが仕方がない。
最初に救助船を出すって言ってくれたのが、この男しかいなかったのだ。
(最初はお国の軍の救助船を出そうとしたので、海里は更にげっそりしているのだった。←結局思いとどまったけどな。しかし、救助という名目があるにしても、軍船を私用に使える国って…)

そんな男がどうして二人を救助に、という辺りが首を捻るところだが、彼が言うには『黒羽には恩がある』のだそうだ。
なんか知らんが助けて貰ったらしい。
もちろん、それが表向きの理由だってことは解っている。
結局この男は、オレと一緒で黒羽さんに惚れてやがるのだ。

…それにしても。
Trouble Is My Business とはいえ、あのチビも、オレも、この男も。
みんな黒羽さんに助けられて、黒羽さんに惚れている図って、どうだよ。
何かの呪いにかかったと言われても、納得してしまいそうだ。

「畜生、さっさと助けちゃおうぜっ」
こうなったら恥ずかしい真っ最中に助けたる、と思った海里だったが、男はチッチッと指を振ってニッコリ笑った。
「ダメダメ。エッチの最中に邪魔なんかしたら、七代祟られます」
「どっからそういう言葉を仕入れてくるんだ…」
ガックリと頭が落ちる。
「人のエッチは邪魔してはいけない。とりあえず一回は、終わるのを待つのが礼儀なのです」
「礼儀なのかよっ!」
「礼儀なのです」
殆ど漫才だが、男は重々しく頷いて、再び双眼鏡を目に当てて、熱心に眺めだした。

お前、ホントは黒羽さんのエッチな姿が見たいだけだろうっ!

肝心の二人はするのに夢中で、救助船にはまったく気付いていないらしい。
覗き放題である。
「みんなに見られちまえ、バーカ」
「終わったら合図しまーす」
「しなくていいっ!」


 救助船から覗く者一人。
結局二人っきりになんて、全然なってないまま、黒羽と白鳥の『愛の営み』は 3回も続いちゃったのであった。

(4回目はオレが止めた。けどどうして止めなかったんだよっ! 礼儀なら一回
 で充分だろがっ。 by海里)
(合図しなくてイイと言うから、つい止めないで見てしまいました。
 目の正月でーす♪ byコイ)

『太陽がもっこり』 完

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