−Midnight−
クリスマスは家族と一緒に過ごす日、それが本来のクリスマスだって言う人がいるけど。
でもオレは、恋人の日でいいんじゃないかと思う。
まあ宗教なんてチャンポンな日本のクリスマスだし。
厳格に考えることもないじゃん(大体、子供にとってはケーキ食べる日だったりするし)という気持ちもぼんやりあるけど。
オレが考えていたのは、コウのことだった。
家族で過ごす日……。
そう言われたら、コウは独りぼっちになってしまう。
両親も親戚もいない。
オレだって家族じゃない。
すごくすごく家族になりたいけど。
でも、男同士だから、家族にはなれない。
コウが女の子が好きなら、これから誰かと結婚して新しい家族を作る可能性もあるけど、そんな日は来ない。
だから……。
クリスマスが「家族と過ごす日」になってしまったら。
きっとコウは軽くため息をつき、諦観して一人で静かに過ごすだろう。
一人なんだから仕方ないと、事実をただ受け入れて過ごすだろう。
解ってる。コウは特に記念日や祝日に思い入れはないのだ。
だから、何ということもない。
いつもと同じ、一人で過ごすだけだ。
オレは、それが充分解っているけど。
でもオレは嫌だった。
そんな風に一人で過ごすコウを想像したくなかった。
オレは家族にはなれないけど、恋人にはなれる。
クリスマスが「恋人の日」なら、コウは独りぼっちにはならない。
絶対オレと一緒だ。
二人で過ごすんだ。
長い夜を、雪でも見ながら……。
…って、ベッドの中で抱き合ってたら、そんなの見ている暇はないかもしれないけどさ。
たとえどれだけ違うと言われても。
これからも日本のクリスマスは「恋人の日」であればいいと思う。
コウが決して一人にならないように。
コウみたいな人も、誰かと一緒の夜を過ごせるように…。
「なあ、コウ」
「なに…香澄?」
ベッドの中、オレの隣に横たわったコウが、眠そうに答える。
瞼が今にもくっつきそうだ。
「コウは…一人でいたい訳じゃないよな?」
「?」
睡魔に今にも引き込まれそうな感じの目で、コウは不思議そうにオレを見た。
一人でいても平気だろうけど。
でも、一人でいたい訳じゃないよな?
「か…すみ? なに?」
コウは長い睫毛を瞬かせて、小さくあくびをした。
その姿があんまり無防備で、可愛くて、オレは腕を伸ばしてコウの身体を抱きしめた。
ううん……、とため息を漏らしながら、コウがオレの胸に甘えるように顔を寄せる。
「一人でいるより、オレと一緒にいたいよな」
「……んん…。なにを…。当たり前じゃ…ない……か」
声は途中からどんどん小さくなっていき、最後の言葉は寝息に紛れてしまった。
規則正しい息が、オレの胸に暖かくかかる。
コウは、自分の欲をあまり自覚していない。
何をしたいとか、何が好きとか嫌いとか。絶対あるはずなのに。
自分の欲望をぼんやりと押し殺して、よく解らないままにしている。
だからオレは、時々言葉ではっきり聞いてみるんだ。
何が好き? 何がしたい?
オレが好き? オレと一緒にいたい?
そうすれぱ、コウにも解るだろう。
自分が何を望んでいるのか。
言葉にして、初めて見えてくるものもある。
自分の心がよく解らなくなったら、問いかけてみるといいんだ。
何がしたい? 何が好き? 何処に行こうか…。
オレはコウが好き。
コウを守りたい。
コウがいる世界を守りたい。
その為に、正義の味方になるんだ。
コウは何が好きなんだろう。
オレは知りたい。すごく知りたい。
今日は、オレと一緒に抱き合うのが好きって事が解った。
オレと一緒にいたいって想いが、当たり前だと、コウはそう言った。
オレは嬉しくて、つい笑ってしまう。
明日は、どんな『好き』が解るだろう。
どんな事が、当たり前になっていくだろう。
真夜中に、寝ているコウを抱きしめる。
この暖かさを、コウも好きだろうか。
色々な『好き』を、ひとつずつ手に入れていこう。
コウと二人で……。
目が覚めて朝になるのが、とても楽しみで。
同時に、この夜が終わってしまうことが、とても惜しかった。
END
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