バースデー・スラップスティック−香澄の場合−
「誕生日プレゼント、オレ欲しいなーっ」
「ああ、いいよ、何がいい?」
コウはあっさり言ってきた。
「何でも言っていいか? それはダメだとか言わない?」
「手が出ないほど高いものは困るな。戦闘機一機とか」
「ちょっと待てよ。そりゃ冗談か。誰が100億もするようなものをプレゼントにねだるかってーの。第一そんな金があるなら現金で欲しいぜ」
「高くないなら、じゃ、いいよ」
コウはこれまた何も聞かず、あっさりオッケーを出す。
本当にいいんだな。とりあえずもう一度だけ確認をとる。
「なんでも?」
「ああ、どうぞ。何が欲しいんだ、香澄は」
そこでオレは一息ついて、こう言った。
「コウのハメ撮り写真」
「はああ?」
コウの頭の中で、検索中の文字がぐるぐる飛び交っている様子が目に見えるようだった。
いやあ、検索してもインプットされてない単語は出てこないでしょう。
オレは一つ咳払いをする。
「何でもいいってオッケー出したよな。もう拒否権無いからな」
「わかった…けど。ええと。でもハメ撮り写真って、何だ?」
「コウとオレが、セックスしている所を撮った写真、だよ」
コウがあんぐりと口を開ける。
「香澄…それはどういう趣味」
「いいや、ぜんっぜんおかしくないね。オレの知ってる限り彼女とのエッチ写真を一度は撮っておくのは世間の常識だ。
正常な男なら彼女のエロい写真を撮っておきたいと思う。絶対間違いない。あそこのアップとか、してる所とか、そりゃーもう隅々まで。
コウは女じゃないけど理屈は一緒だ。自分の恋人の一番いいシーンを撮っておきたい。そーいう訳で、全然おかしくない。オレは正常だ」
一気にまくし立て、思いっきり胸を張る。
「正常?」
「そっ、正常」
「世間の…常識、なのか? ホントに?」
「おう。間違いないね」
オレはここが肝心とばかりに、自信たっぷり頷いてみせた。
そう、コウを相手にしている時は、自信を持って押し出しよく喋るのがコツなのだ。
自分の知らない事に関してはコウの奴、押されると結構ころっと騙される。
(仕事の時には不思議とそうじゃないんだけどな)
そういう訳で、オレはもう100バーセント常識って真顔でコウを見つめちゃったりして。
「いいね、コウ。プレゼントだから。約束だぞ」
「あ、ああ…」
コウはボーゼン、とした顔で、それでも頷いた。
オレも『ハメ撮り』って言葉をここまで真剣に語るとは思わなかったが、少しでもふざけたりしたら、この先二度とチャンスはない。
兄貴から譲り受けた高級カメラ(接写できるタイプ)が泣くってもんだ。
そして一度前例を作ってしまえば、また二度目のチャンスが来る可能性もある。
その為に、最初が肝心だった。
うん。コウがああいう性格で良かったぜ。
さーて、だけど。どんな風に撮ろうかな。
あんまりアブノーマルなものはオレの好みじゃないし。
まあ最初だから、今回は無難な感じでいくか♪
「本当に、撮るのか…」
コウはまだボーゼンとした顔をしていたが、オレは大きく頷いた。
とーぜんですとも。その為に用意したラブホテルですぜ。
「解った。約束だものな。プレゼントだし」
うう〜ん。そのちょっと嫌そうな顔も、それなりにいいかも。
オレってもしかして、少しサド入ってる?
「じゃあ最初は、軽くストリップからいってみようー」
「ビデオじゃないんだろう? カメラだろう?」
「うんまあ、そうだけど、少しずつ脱いでいってよ。オレがいい所で撮るからさっ」
「……」
その目はなんだよ。これはどんな男だって彼女の同意があればやってみたいものなのっ。正常だぞオレは。間違いないって。
仕方ない、という顔でコウが服を脱ぎ始めた。
うん、そう。ちらっと鎖骨見せて。次に背中を…。
「そのランニング、リテーク! シャツを脱いだら素肌が基本だろっ」
コウはじろりと睨んだが、言われたとおりランニングを脱いで、もう一度シャツを羽織った。
うう〜ん。するりと落ちるシャツの下から現れる、コウの白い身体。
唇と同じ色の小さい乳首がたまりませんっ…。
「…ってコウ! なんだよそのパンツ」
「単なるトランクスだろう?」
「通販のっ!」
「どこか悪いのか」
「悪い! トラ縞サイテー。どうしてそんなものはいてんだよ。ラムちゃんか、コウはっ!」
「5枚セットの中に入ってたんだ」
「それをよりによって今日はいてくるわけ? コウ、ハメ撮りをなめてるだろう。ハメ撮りはなっ。オレの熱〜い心の現れなんだよ。愛とロマンが溢れる世界。言ってみれば『ハメ撮りはオレの夢だ!』って感じ。解った?」
「香澄…それは真面目な話なのか?」
「ともかく、コウはプレゼントの意味が解ってない。
いい? プレゼントってのは相手が喜ばなくちゃ意味ないわけ。コウはオレを喜ばせたくはないのかよ」
「もちろん、喜んでは欲しいが」
「よーしオッケー。それでいいんだよ。まあコウはハメ撮り初めてだし、今回は仕方ないよな。パンツはこの際いいとして、この次注意するように」
「次って…次があるのか」
ぼっそり呟く黒羽を完全に無視して、白鳥はパンツの替わりにタオルを差し出す。
「パンツ脱いで、素肌にこれをちょっとズラして、ポーズとってみよう。いい? 男のロマンはチラリズムだぜ。がばっと開いたのは後で撮るから、今はチラリズムの美学でいくぞ」
結局何が言いたいのかというと、がばっと開いたのもチラリとしか見せないのも、両方とも男のロマンだと言う事らしかった。
「うわーっ、だめだコウ。シャワーは湯気がカメラに」
「うん。そうだろうとは思ったんだけど。レンズが曇るだろう?」
「うううっ。でもここでシャワーシーンを撮らなかったら、画竜点睛を欠くって言うか、ラストピースの無くなったジグソーパズルって言うか…」
考え込む白鳥に、黒羽が頷く。
「解った。お湯を出さなければいいんだろう」
「えっ、コウ。水シャワー、いいの?」
「いいさ、部屋は暖かい。ハメ撮りは香澄の夢なんだろ。ただし早めに終わらせてくれ」
「オッケーッ♪」
うへえ〜。やっぱり男のロマンはシャワーシーンだよな。(←男のロマン、いっぱいありすぎ)
濡れた髪に、ちょっと開いた唇。
そして白い身体からいやらしく滴り落ちる水滴。
水は頭を濡らし、胸から腕、指先をつたい、コウのあそこにも流れていく。
ああもう。男のシャワーシーンに興奮するのって、もうホモですオレ。
そんでもってホモでもいいです。
ホント色っぽいよ、コウ。最高。
映画なら絶対、足元から舐めるように撮ってる所だ。
そして、いよいよオレ達はベッドで本格的な撮影に入った。
オレだってシャワー浴びて、準備は万端。
「香澄…」
さすがにベッドシーンになると、コウも少しはその気になったらしい。
抱き合ってキスした後、跪いてオレのモノを咥えてしゃぶる。
ううう〜。
舌が絡みついて、やっぱりコウのはすごいです。
…って、気持ちよがってるだけじゃダメだろ。写真、写真。
フラッシュの明かりに、コウは微かに顔をしかめた。
「やっぱり撮るのか」
「うん」
「香澄はいいのか? こういうのが」
「うん、なんか興奮する」
「そうか、じゃあ…」
「なんだよ、コウ」
「いや、別に、後でいいよ」
コウはそう言って、本格的にフェラチオを始めた。
オレのモノを喉の奥までくわえ込む。
あああああ〜。ディープスロートってやつ〜。
オ、オレちゃんと写真撮り続けられるだろうか?
もちろんオレは撮った。
本能が勝つか、男のロマンが勝つか。
いやもう、どっちにしろエッチはやるんだし、エロ写真の為なら、オレはやりますよ。やれますとも!
って、仕事でもこんなに熱心になった事、オレってば無いんじゃないだろうか…。
「はあっ。あっ。ああっ…」
オレのモノを完全に呑み込んで、コウの体が揺れる。
オレは勃ちあがったコウ自身を手に握り込んで刺激を与え、感じてる表情を楽しみながら、もう一方の手のカメラで、次々と写真を撮り続けた。
「はっ。香澄…。もっ…と。あっ」
ああ、やっぱりビデオにしときゃ良かったかなあ。だってこの、エロい声。
「あっ、ああっ」
オレの手の中でコウがイク。
もちろんその瞬間も激写。
ううむ。手ぶれが心配だけど。でも何枚も撮っとけば、成功写真の数は多くなる筈だ。
イった後のコウは、荒く息をつき、全身がほんのりピンクに染まる。
そのこれ以上ないくらい下半身直撃な表情も、カメラでゲット。
お宝、お宝〜♪
ラブホテルだって特性を充分生かして、オレは鏡の中の二人の絡みも撮った。
鏡だとフラッシュが使えないんで出来の方はあとのお楽しみだが、でもこれだとコウの体だけじゃなく、完全に二人でエッチしている所が撮れるのがいいんだよね。
はいもう、バッチリコウのご開帳とか、ひっくり返したりうつ伏せにしたり。
オレは撮りましたよ、頑張って。
(コウに頼み込んで、顔射もやらせていただきました。やっぱり顔射は男のロマ…バキッ!!( -_-)=○☆)>_<)アウッ!)
ちゃんと写すためにコウの体を支えたりして、かなり腰とか背中にキてるけど、オレへのプレゼントだもーん、これ。
えっへっへ。
香澄ちゃん誕生日バンザーイ。
年をとるって、いいなあ…。うっとり。
「満足か? 香澄」
「うん。最高に良かった」
フィルム何本使ったんだろ。来年もお願いしようかなーっ。
今度はちょっとだけアブノーマルもいいかも。
軽く縛り入れるとか。そうだ、プレゼントなんだから、コウをリボンでぐるぐる巻いた写真とかいいかもしんない。
全身あちこちリボン縛り。
あーんな所やこーんな所も縛っちゃったりして。
イきそうでイけない、コウの切なげな表情も激写。
よし決めた。
次はそれで行こう。
名付けて『あたしがプレゼントよ』ハメ撮り!
「で、どこで現像するんだ? それ」
「へ?」
「へって、フィルム写真だろう、それ。写真屋に出すのか? そういうのを現像してくれる特別な所とかあるのか? その辺に現像に出すつもりなら、僕は絶対に嫌だからな」
………………
あっ!
いきなり頭の中が真っ白になる。
一気に血液が足元に落ちてきた感じ。
と、撮る事ばかりを考えていて、現像する事には思い至りませんでしたぁぁ〜っ。
ががががーーーーん。
まぬけ200%間違いなし。
オレって爆裂バカバカバカッ!
こんな写真、オレだってその辺の写真屋に出せる訳ないじゃないかーーーっ!!
(てゆーか、受け付けてくれないんじゃ…。そんなもの)
殆ど涙目になりつつあったオレに、後ろからそっとコウが声をかけてきた。
「…考えてなかったのか」
「……」
オレは頷く。
コウ、その哀れむような目って言うか、敗残者を見るような目はやめてくれる?
とほほ。
いくら高級カメラだからって、兄貴のおさがりなんて持ってくるんじゃなかった。
どうしてオレ、新しくデジカメ買わなかったんだろう。
デジカメなら、撮ってパソコンに入れりゃオッケーだったのに…。
写真屋以外のツテは、ある事はある。
ただし、それは海里の野郎だ。
コウとのエッチ写真なんて、死んだって見せたくない相手だ。
つまりその、これは…。
オレにこれからどこか教室に通って、暗室技術を習えと、そういう事なんですね、神様。
うん、でもそうすりゃ、これからどんな写真だって撮り放題だし、フィルムは少しくらい時間がたっても消える訳じゃないんだから、すぐに見られない分、後からのお楽しみが増えると、そう考えればいいんだよな。
オレは前向きに、カルチャースクールのパンフレットを検討する事にした。
「解決ついたのか?」
オレの表情を読んで、再びコウが話しかけてくる。
「うん。要するにオレが現像できるようになればいいって事」
「なるほど。それならいいか。じゃあ香澄、まだフィルムが少し余っているみたいだし、今度は僕の分も撮るから」
「え?」
「えじゃなくて。恋人の一番良いシーンを撮っておくのは、男の常識なんだろう?」
「そ、そうだけど」
「僕も男だ」
「えっ。えええ〜っ」
「撮られている時はよく解らなかったが、香澄がいいって言うんだから。撮るほうになれば、良さが解るかもしれない」
こ、これからもう一戦ですか?
オレかなり腰とか、もうキてるんですけど。
「僕の場合はプレゼントじゃないから、そのフィルムの余ってる枚数だけでいいよ。ストリップもシャワーシーンも抜きで、じゃあまずフェラからよろしく」
ええと…。
コウはもう、しっかりカメラを構えていた。
こりゃー、やらなくちゃいけないんだろうなー。
いや、もちろんフェラは構わないんだけど、撮られるのは男のロマンじゃないような…。
オレの頭の中には、来年の誕生日に、リボンでぐるぐる巻きにされている自分の姿が映っていた。
男のロマンは平等に?
男が恋人って、そういう事なのか。
オレは初めて、そんな事をしみじみ思っちゃったりしたのだった。
END
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