◆ 妄想のリゾート ◆
あっ、とオレは思った。
コウ…。
トイレのドアを開けて出てきたコウの、その顔。
オレは開きかけたドアを押さえ、コウの体を再びトイレの中に押し込んだ。
「香澄?」
驚いたように目を見開いたコウの声を無視して、オレは更にコウの体を押す。
コウは奥の壁に手をついて、そのまま便座の上に腰を落としかけた。
しかしオレは今度は、その腰をぐいっとこちらへ引き寄せる。
顔を近づけて、そのまま口づけた。
「ん…、んんん…」
コウはオレの行動が読めずに、完全に戸惑っているようだった。
だろうぜ。
コウは今自分がどんな顔をしているか知らない。
オレは引き寄せた腰に、思いきり自分の身体をすりつけてやった。
「!」
今度はコウにも解ったようだ。
オレのあそこが今どんな状態になっているのか。
自分の表情がオレを誘ったなんて事は解らないだろうけど。
でも、オレが何したいかは判ったよな。
オレはコウのズボンを脱がしにかかる。
同時にコウの手もオレに伸びてきた。
「…は…香澄。あ…」
コウも興奮してきたみたいだ。
オレはコウの陰りに手を伸ばした。
足を開かせて、一番奥を探る。
コウがびくりと身体を震わせた。
しかし指を挿れようとするが、入らない。
ちっ。
身体だけ暴走しきっているけど、何も用意してねえよ。
だって不意打ちだったもんな。
仕方がない。
オレは便座にコウを座らせて、それから足を上に高く上げさせる。
「…香澄」
すると、されるがままだったコウは、何かを差し出してきた。
「へっ?」
…ええと。
顔につけるローションなんですけど。
あ、そうかメイクしてたんだっけ。でもだけど、それにしても何でそんなものをトイレの個室に持ち込んでるんだ? コウってば。
かーなーりー、都合よすぎ。
…まあいいや。
何だか解らないけど、どうでもいいや。
とりあえず、よし!
ヤれるんならなんだってオッケー! という事にしておこう。
さっきからオレのナニは、もうやる気満々で爆発寸前で、もうダメ、なんだからなっ。
肩でコウの足を押し上げ、コウのモノを扱きながら、オレはローションをたっぷりとその部分に垂らして指で奥へと押し込んだ。
「香澄っ…ああっ」
超色っぽい声がオレを駆り立てる。
背中がゾクゾクするぜ。
我慢出来ないっ。
オレは完全に勃ちあがった雄の徴をコウに見せつけた後、ゆっくりと身体を沈めていった。
コウのその部分が、呑み込んだモノをきつく食む。
「ああっ…あっ。はっ…。はああっ」
たいして慣らしていないまま突っ込まれたコウは、最初ちょっと苦しそうだったが、オレが動き始めると、漏れる声も甘く掠れてきた。
小刻みに抜き挿しした後、一気に深く突き立てる。
「いい…。香澄。凄く…い…。あっ…ああっ」
その声。
いやらしく動く腰。
たまらない表情。
揺さぶり犯しながら、コウの勃ちあがったモノも触ってやると、直截的な快感に唇から悲鳴のような声が零れる。
オレは、その悲鳴をすくい取るように唇を重ねた。
…すごくいい。
最高にイイ。コウの身体。
どうにかなりそうだよ、オレ。
頭が白くなっていく…。
「おい」
どこか遠い後ろの方で、誰かの声が聞こえたような気がした。
「ああ…あああっ。香澄っ…」
「コウ、気持ちいい? もっと、オレ」
「もっと欲しい…。奥まで」
「コウ」
オレは激しく突き上げる。
「あああっ」
「おい、おいってば。畜生。トイレのドア、開けっ放しだぞ。てめーら何やってやがる。て言うかチビ、黒羽さんに突っ込んだ汚ねえモノを引き抜け!」
海里は呆れていいのか怒っていいのか、もはやよく解らない状態になっていた。
隣の個室がいきなり騒々しくなって、トイレから出てみたらこのざまである。
滅多に見られるもんじゃない他人のセックス(しかもホモ)をバッチリ見せられてしまって、ぐらぐらする。
しかも押し倒されているのは、自分がさっきまでメチャクチャそうしたかった相手だ。
それが犯られてて、しかもよがり声を上げているんだから堪らない。
更にドアに向かって完全なご開帳状態だ。
一瞬で、脳の奥まで挿入シーンが焼き付いてしまう。
「くっそー、チビ。いきなりなんて事しやがるんだ、オレの前で。オレだってしたいんだぞ。メチャクチャ。
まだそんな風にはちゃんとヤってねーんだからな、オレは。
ずるいぞっ!」
「コウ、コウ…」
「香澄っ…」
もはや2人は、海里の声なんか耳にまったく入っちゃいなかった。
夢中で絡み合い、声をあげる。
「だいたい何だよ、日焼けして黒羽さんは出来ないって設定じゃなかったのか。どうなっちゃったんだよ、その設定はっ」
海里は後ろでがなり立てたが、ご都合主義の世界に展開されている誰かさんの妄想の中なので、そんな正論は無視される。
海里は地団駄を踏んだ。
「畜生ーっ。もういい。そっちがそのつもりなら見物人を呼んできてやるからなっ。しかも大量にっ。
トイレのドアも全開にしてやる。写真も撮ってやるーーーっ!」
海里はトイレのドアをバーンと開け放つと、大粒の涙をまき散らしながら走り去っていった。