秘密のリゾート前編
第一章 「香澄の計画」
ざざ〜ん、と波の音がしていた。
どこまでも青い空。
白い砂浜と紺碧の海。
ヤシの葉からこぼれる南国の陽の光。
葉陰は白い建物に蒼く映る。
美しく静かなここは、完璧なリゾート地だった。
ただひとつ、建物の中からおかしな声が聞こえてくる以外は。
「…っ」
白鳥に触られた黒羽は軽く声をもらした。
「痛い?」
白鳥の問いに、黒羽は顔をしかめて頷く。
「…少し」
「じゃあ、もうちょっとローション塗った方がいいかな」
白鳥は手にたっぷりとローションを垂らし、黒羽のその部分へと塗り始める。
黒羽は軽く身体をよじった。
「香澄、もっと優しく…」
「ギブアップ?」
「いや、そうじゃなくて、だから…」
黒羽は途方にくれたような顔をした。
うーん、いいなあ、そういう顔。
白鳥は思わず見とれる。
いつも、これでもかって位冷静な顔しているもんな。
クールビューティーって言葉がこれほどしっくり来る男もそうはいない。
なのに、そのどこまでも整ったクールな美貌に浮かぶ、無防備な表情。
ダメじゃん、こんな顔されたら、オレ、抱きしめたくなっちゃうじゃん。
だけど…。
白鳥は微かに肩を震わせる。
だけど今はその…。
実はちょっとからかってみたくなっていた。
「コウってば、初めてなんだ」
「………」
黒羽はうつ伏せの姿勢のまま、じろりと白鳥を見上げる。
出逢った最初の頃なら、この冷たい視線にビビっただろうが、今は違う。
ちょっと余裕、てなもんだ。
「大丈夫、オレ優しくするよ。そのうちよくなるから…」
言いながら思わず軽く吹き出す。
いや、申し訳ないけど、オレ…。
「笑うな…」
黒羽が顔をしかめながら、憮然と呟いた。
その瞬間、ついに白鳥は声をあげて笑い出した。
「ごめん、ワリィ。オレが注意するべきだったよ。コウは外国どころか砂城の外に出たことも数えるほどなんだもんね。海岸の紫外線の強さなんて…」
そこで言葉を切って、もう一度白鳥は笑い転げる。
黒羽は床に転がる白鳥の姿をじろりと一瞥した後、体を起こしてサイドテーブルのローションを取り上げた。
「もういい。あとは自分で塗れる」
「あっ、怒った? 怒るなよ。バカにしてるんじゃないってば」
言いながら黒羽の首筋にキスをしようとした白鳥だったが、のばしてくるその手を素早く黒羽に掴み取られた。
そのまま軽く捻られる。
「痛たたたたたた…」
「痛いのはこっちだ。肌に触るな」
珍しくもちょっと声に棘が含まれている。しかも命令調。
白鳥は慌てた。
「ええっ? じゃあ、もしかしてダメ? 今夜はエッチ全然?」
「…当たり前だろう!」
黒羽は一喝した。
が―――ん。
オレの背中にでっかくショック文字が浮かび上がる。
が…。
ううむ。まあその、仕方ないだろうな、そりゃ。とも思う。
だって…。
白鳥は黒羽の真っ赤になってしまった背中を見つめて頷いた。
あの綺麗な白い肌がなんと無惨なこと。
きっとシーツが触れるだけでも痛いだろうなあ…。
黒羽は懸命になって自分の腕や足にローションを塗りたくっていた。
『日焼けで傷んだ肌に優しい薬用ローション』
ってヤツを。
そう、黒羽の白い肌は全身日焼けで真っ赤になっていたのだった。
生まれてから殆ど陽の光を浴びたことがない真っ白な肌は、いま悲しいくらい腫れあがって熱を帯びている。
海岸を一時間散歩しただけなのに…。
一応Tシャツも着せてたんだが、南の島の紫外線はそんな薄い布きれなどものともせず、コウの肌に届いたようだった。
そして、この予期せぬ出来事で、さっそくオレの計画は初手からおじゃんになりつつあった。
計画っていうのは、名付けて『リゾート地ラブラブ作戦』ってヤツだ。
ベタな名前は放っておいて欲しい。これでも真剣に考えたのだ。
オレ達は一応恋人同士で(オレは最初からすっかりその気だったんだけど、コウの方は長い間その件に関してはとってもあやしかった)ある大きな事件を2人で乗り越えた後は、もう、更にぐぐっと親密になった。
なったのだが…。
実は、それはそれで痛い所がある訳なんだ。
だってオレ達が住んでるのって警察の独身寮なんだぜ。
外から比べると格段に金持ちな砂城の警察のこと。贅沢にも部屋はマンションタイプ一人部屋、だったりする。簡易キッチンやトイレや風呂も付いてるヤツだ。
だからかなりプライバシーは護られる。
とはいえ、残念ながら秘密の恋人同士のプライバシーを守ってくれるほど完全じゃないんだな。
ドアを開けて一歩踏み出せば、同僚がウロウロしている廊下だし。
いくら何でも休みごとに、コウと二人きり個室に鍵かけて閉じこもっている訳にもいかない。
ていうか、それってキョーレツあやしい。
第一たとえ全てを吹っ切ってそうしたとしても、恋人同士が部屋に二人っきりで閉じこもってたら、トランプやってるワケないわな。
あーんな事も、こーんな事もしたくなっちゃう。
でもさあ…。
隣に同僚がいないことも多いんだけど(勤務時間の関係上)それでも音には気を遣っちゃうよね。
少しでも聞こえたら、まずい音だし。
コウの声…でかいし ε〜( ̄、 ̄;)ゞ
ラブホテルって手ももちろんあるが、遠いとこまで出かけなくちゃならない上、その為の時間をあけることが、勤務性質上そうはできない。
そこで考えたのが、どうせ遠い所に行くのなら、いっそのこと海外はどうだ!?
って計画な訳だ。
海外旅行。なんとワクワクする響き。
コウだって行ったこと無いだろうが、実はオレだって高校生の頃、一度だけ家族全員で団体ツアーに参加した経験があるだけだ。
大きな事件を解決した直後だったし、全然休みも取っていなかったので、長期の休暇を申請しても、なんとかなる見込みは充分あった。
海外。いいなあ。
誰も知りあいがいない所なら、いくらでもイチャつける。
オレは旅行パンフレットを大量にゲットして、吟味を始めた。
どこに行こうかな。
やっぱり、海がある所がいいよな、なんて思う。
実はオレは前々から、コウといつか海に行く約束をしていた。
だが、なんつーか、いつだってオレはそうなんだが、実際に初めて行った海と来たら、クラゲが大量に浮かぶ、お台場の海だった。
…大失敗。
いやあ、お台場だってデートコースと言えばそうだが、でも『海へ行こう』でお台場ってーのはちょっと違うと思う。
埠頭にチャプチャプとうち寄せられるクラゲを珍しそうに眺めながら、コウはそれなりに楽しそうだったけど。
でも「断じて違う」と言っておきたい。
オレがコウを誘った海は、そんなんじゃないんだよう。(T△T)
もっとこう「恋人と海」で連想するに値する「海」ってもんがある筈だ。
故に、オレはリベンジに燃えていた。
南国の島。
海に沈む夕日と、砂浜に落ちるシルエット。
よーし、やっぱりこれだよ。これで決まりだ。
コウと初の海外旅行は、リゾート地に決定!
二人っきり。
南の島で碧い海と戯れ、満天の星の下で甘い言葉を囁く。
波の音を聞きながら、ベッドにコウを押し倒す。
それから白い肌にキスして。
ロマンチックな雰囲気でエッチするんだ♪
恋人同士らしくさ。
他に誰もいないんだから、ちょっと大胆な感じで。
いくら声を出してもいい。
あああああ…。
コウのあの時の声が聞こえてきちゃうよ。
ちょっと苦しそうな顔とか、オレの背中に這う指の感触とか…。
だ、ダメだ。
こんな事思い出し続けてたら、メチャクチャ体に毒だ。
だけど、なんつーか、初めての海外旅行でエッチって新婚旅行みたいじゃん。
し、初夜はないけどさ。
オレ達はいつも二人でいるようで、実は『二人っきり』では殆どいられない、というジレンマの欲求不満を常に抱えている。
それをリゾート地で思いっきり解放するんだ。
考えただけでワクワクしちゃうじゃないか。
……なのに。
なんてこった。それが初日からパアかよ。
畜生、オレのばかばかばか。
笑ってる場合じゃねえだろう?
ちょっとお高く付いたが、誰にも見られないようにするために、プライベートビーチのついたコンドミニアム形式のホテルを予約した。
二人っきりで思う存分べたべたする。
ビーチパラソルの下でのんびり寝たり、そのままエッチになだれ込んじゃったり…。
そうさ。
計画した時、オレの頭の中は楽しい妄想でいっぱいだったんだ。
アレもしよう、これもしようって。
なのに今、顔をしかめるコウを目の前に、オレは指一本触れることも出来ないでいる。
くっそー。紫外線め。
どうするんだよ、オレ。
この調子じゃ今日はもう外には出られないだろうと思う。
まあ、初日からあえて出なくてもいいんだけど。
だって、二人っきりを満喫するために来たんだもんな。
飽きたら外に出ればいい。
しかし、それにしても…。
コウの赤い肌を見ながら思う。
からかっちゃ悪かったかなー。初めての経験な訳だし。
けっこう辛そう。
「コウ」
「なに?」
じろりとこちらを睨みつける。
うっ。思ったより不機嫌だ。
「風呂入らない?」
「風呂?」
コウは微かに目を細めた。
「イヤだ」
あっさりと拒否される。
オレは断られたくせに、ちょっとだけ嬉しかった。
最近コウの奴、嫌だって言うようになったんだよな。
前は絶対言わなかった。
何かを理由に『出来ない』とか、『無理だ』とかいう事はあったんだけど、これはコウ自身の嗜好や感情に関係なく、理論的に導き出された結論だ。
でも、『嫌だ』は違う。
コウがどうしたいか、コウ自身の感情がそこに入っているんだよな。
できるけど、でもやりたくない。
そんな我が儘を言うようになったのが、オレとしてはなんだか嬉しいのだ。
だってそれって、オレに甘えてるって事だろう?
オレの言葉に何でも「YES」と応えるヤツはつまらない。
こんな風に怒ったり、嫌だと言われたり、時々はされてみたいよな。
オレは自然ニヤついていたのだろう。
コウに変な顔をされた。
「いや、だからさ。普通のお湯の風呂じゃないってば。水風呂」
「水…?」
「そうそ。お湯の風呂なんかに入ったら、その日焼け目も当てられないじゃん。だから水だよ。熱持って辛いんだろ? 水に浸かれば気持ちいいよ。オレ背中にシャワーかけてやるよ」
コウは軽く首を傾げた。
オレの言ったことを検討しているらしい。
「そうだな。確かに気持ちいいかも」
「そうだよ。そうそう♪ さあっ。ズボンも全部脱いで、風呂入ろうぜ」
「……香澄も、はいるのか?」
小さい声でコウが呟くのが聞こえたが、そりゃオレだって入るとも。当然だろ。
オレは背中痛くないから、入る必要はないかもしれないが、でも『入りたい』んだ。
「オレも裸にならなかったら、シャワーの水浴びて、服が濡れちゃうじゃんか」
もっともらしい理由をつけて、オレはシャツを丸める。
「…………」
コウは黙ったが、風呂には入るようだった。
風呂は南国ムードたっぷりの明るく広々としたものだった。
蛇口を捻ると、色とりどりのタイルの上に透明な水がゆっくりと溜まっていく。
「コウ、ほらほら」
オレは手招きしてコウを呼び寄せると、まだ殆ど水の入っていないバスタブの中に座らせた。
それからオレは、ちょっと目を細めてその絵を鑑賞する。
鮮やかな色彩の花が飾られたバスルーム。
磨りガラスを通した明るい光が、柔らかくコウの身体を包む。
…なんて綺麗なんだろ。
どこに立ってても、どんな格好でも、この美しさだけは変わらない。
今は無惨に赤くなっているが、それでもなめらかな白い肌。
思ったより細い手首に長い指。
胸から腰にかけての曲線はオレをゾクゾクさせた。
しかも全て、遠くで鑑賞する類の美しさじゃない。
触れる事を誘惑するなまめかしさと柔らかさを持っていた。
服を着ている時は、その美貌は周りを寄せ付けない冷たさと硬さを感じさせる事も多い。
クールビューティーという言葉が、これほどぴったりな男もいないと思う。
しかし余分な装飾品を全て取り去った時の彼は、驚くほど無防備で、なんて言うのか…。
こういうのが、色気があるって言うのだろうか?
男の中にある欲望を一瞬で刺激し、捉えるものを、全身から発散させていた。
コウが本気になって誘ったら、よっぽどのホモフォビアじゃないかぎり、どんな男だって夢中でその身体に飛びかかっちゃうだろうと思う。
「なにか、妙に楽しそうだな…」
コウはちらりとオレを見上げた。
うっ…。その勘ぐる様な目は何だよ。
オレがコウの体にいたずらするとでも思っているのかよ。
そりゃーもちろん、お許しが出ればすぐにでも、いま妄想していた事を実行したいですよ。
だけどさっきだってコウ、オレの腕をねじり上げただろ?
「な、なに言ってんだよ。さっさと背中向けろよ」
オレはシャワーを捻って、勢いよく水しぶきをバスタブにはね散らかした。
コウは目をしばたたく。
「ちょっと水の勢いが強いんじゃないか?」
オレはコウの抗議を無視すると、すばやく後ろに回った。そして、赤くなった背中に流水をバシャバシャとかける。
「…っ」
一瞬コウはうめいたが、やはり気持ちいいのだろう。
軽く息を吐くと、黙って目を瞑った。
オレはホッとする。
だって…。今はちょっとまずいんだよう。
妄想だけじゃなくて、コウの体が目の前にある訳だし。
日焼けさえなかったら、誰に遠慮する事もないし。
まあその、コウに見られてもせいぜいが呆れられるくらいだって事は解っているけど。
だけどもうちょっとだけ待てよ、オレ。
もちろん。
ご想像通り、オレのあそこはすっかりその気になっていた。
抱きしめたい。
うううっ…。
このまま後ろから襲いかかりたいっ。
コウの背中がどんなに大変だろうが、容赦なんか全然考えてないオレの下半身は、欲望を激しく主張する。
だけど、今やったらヤバイって事くらいオレにだって解る。
理性というより、打算だよな、これって。
いま一時の欲望に負けてそんな事したら、まずは背負い投げくらって、風呂場の床に叩きつけられる。
そして一週間しかない休暇の半分くらいは、不機嫌なコウの相手をする事になる。
そんな効率の悪い事やってたまるか。
今は腫れてるけど、明日にはだいぶ良くなるはずだ。
そしたらコウだって、エッチしたくない、なーんて事は無い筈なんだから。
今日の所はがまん我慢。
出来るだけ冷やして腫れをとって…。
オレってなんだか健気?
「気持ちいい? コウ」
「…うん」
コウはうつむいて目を閉じたまま答える。
オレの状態にはまったく気付いていない。
オレは前屈みになりながら水を背中から腕にも流してやる。
黙ったままだけど、なんとなくコウの機嫌が良くなっていくのをオレは感じていた。
タイルを敷き詰めた広いバスタブには、なかなか水が溜まらない。
深さはやっと足首から上を浸し始めた所だ。
その時オレは気付いてしまった。
ううむ。触っても平気な所が一ヶ所あるじゃんか。
触っても平気な所。
唯一日に焼けてない白い場所。
それはもちろん水着をとって裸になったら解る部分だ。
男だからな。上半身裸になるのは当たり前だ。
だけど、ヌーディストビーチでもない限り、海岸で全部脱ぐなんて事は、さすがにない。
だからコウだって、下はちゃんと履いていたんだ。
パンツとズボン。
ズボンは膝までの短いものだったから、膝から下は赤くなってたけど、でも硬くガードされてたあそこは違う。
腰から太股にかけての肌だけは、紫外線の攻撃からバッチリ守られていた。
うう〜ん、なんつーか。
肝心な部分がオッケーってーのも、その…。
オレってラッキー?
あそこなら触っても痛くないはずだ。
(というより、気持ちイイ筈だよな、絶対)
オレは頭の中で攻略シミュレーションを始めた。
理屈ではオッケーなんだが、いきなり肝心の部分に手を伸ばしたりしたら、即座にぶっ飛ばされる事必須。
いつもならもちろん、コウがそんな事をする筈はないが、なにせ今は手負いだ。
オレは背中の下の方にも水をかけながら、そ〜っと下に手を伸ばした。
「この辺は痛くない?」
なーんて言いながら、シャワーもずらしていく。
「うん…。その辺はあまり…」
目を瞑ったコウは、オレの思惑にはまったく気付いていない。
「どの辺から痛くないの?」
様子を探りながらその部分へと手を伸ばしていく。
むむむ。痴漢の気分が解ってきちゃったぜ。
知らない女の子の嫌がる身体に触るヤツは許せないが、これはまあそういうのとは違う。
恋人の身体のどこをどうやって触ろうかってシチュエーションだ。
どこを最初に攻めればいいか。どうすれば気分良く相手が落ちるのか。そういうのを考えるのって、結構楽しい。
「香澄、やっぱり背中の上のほうが痛い。そっちに水をかけてもらえると…」
そこまで言ってコウの言葉が途切れた。
「か…香澄?」
もちろんオレの手は、しっかりコウの前に廻されていた。
「…………」
一瞬沈黙が走る。コウが目を開けた。
オレの手はコウの下腹辺りから、更に下に降りようとしている所だった。
「…シャワー、背中にかけてくれる筈じゃなかったのか?」
「かけてるじゃん」
「じゃあその手は?」
「この辺は痛くないかなーって思って…」
ヤバイ、ヤバイぞオレ。声が思ったより冷たいぞ。
でもでも、こんな格好でこんな事してたら、いたずらするなって方が無理ってもんだ。そうだろ? なっ、なっ?
オレは心の中で夢中で言い訳を捜す。
「肌に触るなって言った…あっ…」
コウの声が跳ね上がる。
「香澄…なに…」
なにってもう、こうなりゃ押して押しまくるだけじゃん。
後へは引けない。
「触るなって言ったのは痛い所だけだろ? ここは痛い訳? 下のほうは痛くないってさっき言ったよな。だから確かめてるんじゃないか」
どんどん言う。
もう言ったもん勝ちだ。コウの反論は聞かない。
「確かめ…香澄ずるい。なに言って…ああっ」
もちろんオレは、コウの気持ちいいとこは全部知ってる。
今はその一部しか触れないけどそれで充分だ。
コウの表情を楽しみながら、オレは手を動かした。
「痛くないだろ? 痛いならやめるよ。コウ、いいよな」
「…うっ。あっ…」
もう喋れなくなってる。
やっぱり押して正解。コウは押しに弱いのだ。
「あああっ…あっ」
大きな声をあげてオレの手の中でコウがイった。
顔を紅潮させながら息を付き、ぼんやりとした瞳でちらりとオレを見る。
い、色っぽい…。
いつでも思うんだけど、イった直後のコウって、下半身直撃。
もうオレ、我慢できませんっ。
「なあコウ、なあ、オレのも。オレのもお願い」
「ん…」
コウは半分口を開けて、舌を出した。
オレはその唇に自分のものを押し当てる。
コウはそのままオレのものを咥え込んでくれた。
舌と唇が柔らかく吸い付く。
う…わあああ。気持ちいい。
めちゃめちゃイイ…。
一度ヤっちゃえばこっちのもの、って考え方、オレは好きじゃないんだけど、コウの場合ちょっと当てはまるよな、なんて思う事がある。
どんなシチュエーションだろうと、なだれ込んでその気になると、何でもやっくれる。
そりゃーもう、経験の浅いオレなんかひっくり返っちゃう様な大胆な事だって平気でやる。
(そんな感じだから、時々オレは気が気じゃないんだけど)
でも今はその性格バンザイ。
今日は絶対ダメだと思ってましたぁー。
ああ、もうイキそう。(早いよ、オレ)
だけど良かった。
口の中は日焼けしてないもんなあ…。(←バカ)
口の中が日焼けしてないって事は。
下品な言い方だが、下の口だって日焼けはしてないんだよなあ。
オレの頭の中でさらなる欲望がぐるぐるする。
コウの中のオレはもう限界に達していた。
「ん…んんん」
コウの舌が擦りあげる。
「な、コウ。口じゃなくてさ…」
言いかけた瞬間強く吸い上げられた。
「うっ…あっ」
完全に限界だったオレはコウの口の中であっさり達する。
うう…。
コウってば。どこでオレがイクかちゃんと計算してやがる。
だけどオレはあんたよりずーっと若いんだもんね。
二戦目だってかーるく。
だがコウはしゃぶっていたものをあっさり放すと、いきなり下に捨て置かれていたシャワーを掴み、オレの大事な部分に向かって発射した。
「うわっっ。ぎゃーっ。冷てえええっ」
「おしまいだ、バカ」
コウは口の辺りをぬぐいながら、唇を曲げて笑った。
「ひでえ…」
「どっちが酷い。僕の都合も少しは考えろ」
「小さくなっちゃったじゃんよー」
「ずっと勃ててる気だったのか?」
「ううう…」
「もういいから。水も溜まったし。香澄は外」
黒羽はしっしっと手を振った。
「ちくしょー、後で覚えとけよ」
情けないけど定番の捨てゼリフだけは忘れずに、オレはバスルームを後にした。
風呂の中で、悠々水に浸かりながら黒羽は笑う。
タイルの風呂は広々として、思いきり足が伸ばせるのが嬉しかった。
しかし、自分がこんな風に笑う時が来るなんて、思ってもみなかった。
香澄は『コウ自分で思ってるより笑ってたよ』と言ってくれたが、やはり笑った記憶などほとんど無い様な気がする。
香澄がよく笑う男だからかもしれない。
自分は多分よく笑う男が好きなのだ。
(考えるとまだ傷は痛むが、冬馬涼一もよく笑う男だった)
自分が殆ど笑わないから、こちらに向けられる顔にも笑みが浮かぶ事はまれだ。
大抵の人間は、自分の前で硬い表情を崩す事がない。
だから、笑わない僕にも、屈託無く笑顔を見せる男に心惹かれるのかもしれなかった。
そういえば…。
もう一人いたな、と思う。
自分に笑いかけてくる男が。
彼も…そうなんだ。
黒羽は脱色した短い髪を思い浮かべた。
next
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