恋人未満−6ヶ月−
ベッドの上の裸のコウにキスをする。
コウは長い睫毛を伏せて、オレのキスに応えた。
形のいい唇。
女の子みたいに口紅を付けてる訳じゃないのに、綺麗な朱色の唇。
きっと色が白いからだね。
その白い肌にも唇をあてる。
漆黒でさらさらの髪。白いすべすべの肌。紅くて柔らかい唇。
それじゃまるで白雪姫だと、前にオレは揶揄った事があったっけ。
コウは言われた意味がよく解らなかったらしく、憮然とした顔をしてた。
コウ、綺麗で可愛いよ。
オレより背が高くても、年上でも。
それでも可愛い。
抱きしめてキスすると、ほんの少し震える。
そういうところが、全部可愛い。
コウの事、こんな風に可愛いって思える時が来るなんて、ちょっと想像できなかったな。
大好き。
もちろん初めて見た瞬間から、オレはコウの事が大好きだった。
なんて綺麗なんだろうって、目が離せなかったし、すごく綺麗でカッコイイって純粋にそう思ったよ。
あれが一目惚れってヤツなんだろうな。
炎の中でコウが死にそうになってた時は、胸が潰れそうになったし、独りぼっちの顔をしてた時は、オレがずっと一生そばにいるって、真剣に思った。
大好きで、でも遠い憧れで。
そしたら次に会った時は、パートナーになってた。
やっぱりもちろんオレはコウの事が大好きだったけど、でも同僚としてはかなわないなって悔しく思ったし、怒鳴られた時はマジ怖いと思った。
初めてのえっちの時は凄く積極的で、ビックリしたし、過去の話を聞いた後は、どうしようもないくらいあんたを抱きたくなった。
そんな風に、色んな表情を見て、色んな感情を抱いたけど。
可愛いって思う日が来るって、あまり想像してなかったよ。
だってあんたは
男で年上で、有能で綺麗で、少しだけ怖い。
憧れだった、オレの正義の味方…。
だけどオレはキスしながら思う。
コウは可愛い。綺麗で可愛い。
上から被さって、熱い身体を抱きしめる。
今日でちょうど6ヶ月。
オレがそう言ったらきょとんとしてた。
忘れたなんて言わせない。そこまで生きたら正式にパートナーとして認めるって、コウが言ったんだぜ。
そう、オレはしつこいんだから。そして約束は破ったりしない。
「でも香澄…」
そう言って首を傾け、困ったように口をつぐんだ。
うん、解ってる。過去の話をして以来、コウの敬語は完全になくなった。
たぶんまったく意識していなかったのだろうけど。
そして、あのホテルレオニスの屋上から、再びコウを連れ戻して。
下でもう一度抱き合った。
あの時、コウはオレの事をもう認めていたね。
時間とかは関係なかったんだよな。
でも、それでもオレにとって6ヶ月目のこの日は、大切な日なんだ。
言葉にしなくても解る事は、確かにたくさんあるけど。
それでもオレはコウに言うよ。
コウは言わなくていい。
オレがコウに言う事が大事なんだから。
さあ、6ヶ月たったよ。
オレは、コウにとって、どんな男になった?
レオニスの廃墟から降りて、オレはぐるぐるホテルなんかを探してしまった。
まだ昼間で、ついでに桜庭さんの言葉を借りればオレは仕事中だけど。
でもとにかく、コウと続きがやりたいんだ。
上で言った、いつか死ぬって言うならそれまでになるたけたくさんヤッておかないと心残りじゃん、って気分なんだよ、オレは。
あんな瓦礫の中で抱いたくらいじゃ、全然足りない。
上着の上なんかでおそるおそる寝てたら、全身じっくり触るわけにはいかないしさ。
(ついでに上着はボロボロだよ。スーツ買い換え決定。ちぇっ、こないだクリーニングに出したばかりなのに)
オレは思いっきりできるところで、コウとエッチな事をしたい。
もう、ベッドの上でコウの服を全部引っぺがして、どこもかしこも恥ずかしいところにも全部キスして。(嫌がってもやめてやらない)
たくさん感じられるように、ローションとか思いっきり塗りたくってな。
それで、オレのをコウの中に入れて。
たくさんたくさん、とりあえず今はもう勘弁って思うくらい、やりまくって、コウを感じるんだ。
そんな事頭の中でマッハの速度で想像してたら、赤い布見た牛みたいに興奮しちゃって。
今すぐヤらずにいられるかぁーって(何か間違ってるぞ、オレ)目に付いたラブホテルへと、コウの手を引いてガンガン入っていってしまった。
部屋を選んだ辺りとかは全然覚えてない。
ワープしたか? って勢いで、気がついたらオレはコウをベッドに転がして、どんどん服を剥いていた。
コウはどうも、オレのペースについてこられていないらしい。
どことなくボーッとしてる。
そりゃもう、廃墟の上でぶん殴って、二度もえっちしてさ。
たくさん喋ってコウの価値観ぶっ壊して。
混乱かかってるって言うか、容量いっぱいいっぱいって感じなんだろうか?
本当はコウに、オレが言った意味とか、色々ゆっくり考えさせた方がいいのかもしれないとは思う。
でもオレは、怒濤の勢いで押し切っちゃう方をとった。
だってオレ。
今すぐコウと、えっちしたいからっ!
どーせ、本音と本能で生きてる男だよ。
ついでに自分勝手だともさ。
どんどん服を剥いでズボンを下着ごと思いっきり引き抜いたら、初めてコウは、あっ、という顔になった。
オレもちょっとだけ、あっと思っちゃったよ。
コウの下着には、ついさっきオレが出したものが生々しくついていた。
そ、そっか。
上はシャワー、もなかったもんな。
オレの出したもの、コウの中に入ったままか。
でもオレは何でもないって顔をして、そのまま裸のコウをベッドに倒すと、馬乗りになってコウの上で服を脱いだ。
ネクタイなんかまともに締めてなかったから、シャツと下を脱ぐだけ。
ソッコーやれる状態だ。
「香澄、シャワー…」
「やだ」
「でも…」
「やだったらヤダ。すぐやりたい。オレは構わない。コウの中にオレのが入ってるまま、今すぐやりたい」
なんかもう、女の子とはゼッタイできない会話だよな。
こんなデリカシーのない事を女の子相手に言ったら、即座に一発ぶん殴られてそれきりバイバイだと思う。
でもコウは男だから解るよな、オレの気持ち。
とにかくヤリたいんだ。
今すぐ身体が欲しい。何もかもムチャクチャ盛り上がって我慢できない。
ムードとか、そんなのも無し。
とにかくヤリたい。
コウを抱きたい。
コウがいいとも何とも言わないうちに、オレはコウにキスをすると、そのまま思いきり脚を開かせた。
下腹から探って、脚の間に指を這わせ、コウのものを軽く握る。
「んっ…」
目を瞑って体を震わせるコウ。
キスにはちゃんと応えてくれてるけど、下の方は反応してない。
でも、握って何度か動かすと、だんだん勃ちあがってきた。
「…ん。ふっ…」
オレが唇を窒いじゃってるんで、コウは声が出せない。でも、身体はだんだん熱くなってきてる。
あんな瓦礫の中じゃないからさ、さっきよりずっと強引にやっちゃうよ、コウ。
この身体が、コウの男の身体が、オレ欲しくてたまんないよ。
オレは半勃ちになったモノから手を離し、更に下へと這わせ、その部分を探り当てると、ずぶりと指を入れた。
「…っ」
コウの背がびくりと跳ねた。
知ってる。コウは後ろが感じるんだ。
指は二本、簡単に中に入り込んだ。オレは掻き回すようにして、奥の方まで中を探る。
さっきまでオレのが挿入ってたそこは、程良く馴らされ、湿って指にねっとり絡みついてきた。
うわ、こんな所に入れたら、何もしないうちに昇天しちゃいそう。
オレは奥まで指で探り、自分の出したものを掻き出すようにして、入り口付近をぬるぬるにする。
もちろん精液だけじゃ何だから、オレはローションも使った。
自分のビンビンになったモノにも塗って、コウの孔にも滴らし入れる。
こういうのが常備されてるのが、ラブホのいいところだ。
セックスするためだけに用意された場所。
いつもそうってワケじゃないけど、今のオレの気分にはピッタリだった。
「香澄…ん…」
オレはもう、勢いに任せてどんどん責めたてていったんだけど。
コウはなんて言うか、口数少ないって言うか、妙におとなしかった。
いつもはもっと、大きな声をあげるんだけどな。
「あ…っ」
でも、感じてないってわけじゃなさそうだ。
さっきしたばかりってのもあるだろうけど、色々敏感になってるらしく、最初こそ反応してなかったコウのアレも、すっかり硬く勃ちあがっているし、色っぽいピンクの乳首を舌で舐め上げると、喘いでゾクゾクと体を震わせた。
「はぁっ…はっ…」
声というより、息だけがコウの口から漏れる。
睫毛を伏せて、オレが触るたびに何かに耐えるような表情をして。
えらく色っぽい、…っていうか
もしかして…すごく感じてない?
ごくりとオレは、思わず唾を飲み込んだ。
コウが感じてるんじゃないかと思うと、すげえ興奮する。
指を深く突っ込んで、感じる場所を夢中で探した。
「あっ…やっ」
探りながら出し入れしてると、いいところを擦ったのか、コウは堪らなくなったように、オレの肩の辺りをぎゅっと握った。
半分開いた唇。
もれる吐息。
熱くなっていく肌。
全部がオレの下半身を直撃だ。
「ああっ、ああっ…あぁぁっ」
喘ぎ声がだんだん大きくなってくる。
入れてる指がきゅーっと締めつけられ、コウの背中が反る。指なんかじゃ足りないって身体が言ってる。
もちろんオレだってもうダメだ。
指を引き抜き、コウのそこに先走りでぬるぬるの先端を押しつけ、腰を押さえて挿入する。
「やっ……ああぁっ!」
コウの口から悲鳴がもれた。
オレのものを既に二度受け容れているそこは、簡単にオレ自身をずぶりと飲み込み、離したくないように締めつけてきた。
まずは一息に全部突き入れて、それから味わうように腰を引いていく。
挿入すると、底なしに飲み込まれていく気分。
引き抜く時はどこまでも吸い付き、絡みついてきて逃さない感覚。
うわ…ゾクゾクする。
なんかもう、何かすごいよ、コウの肉襞。
熱くて、気持ちよくて、セックスがこんなにいいなら、みんなやりたいって思うわけだよ。
オレはコウの腰を押さえつけて、突き入れては引き抜いた。
強く、弱く。浅く、深く。
激しく、ゆっくりと。
抽送を繰り返すと、コウの身体が揺れて、どんどん熱く溶けていく。
「あ…んん…ぁ…」
声もとっても甘い。
「コウっ…はっ…コウ…っ」
オレもなんか身体が熱い。
もっと深く挿入しようと、足を抱えてオレは更に奥に打ち込んだ。
「ああぁっ」
コウの身体がしなって反る。
「香澄…すごい…なんか、あっ…」
身体を揺らされ、ひどく淫蕩な顔をしながら、コウが啼く。
コウの声をもっと聞きたい。
えっちな声。感じてる声。
ああ、すごく気持ちいい。
今この最高に気持ちいい身体に、オレを全部ぶち込めたら、どうにかなっちゃうんじゃないだろうか。
そりゃあ、いつだって気持ちいいんだけど。でもなんか、今日は特別いい。
だってもう既にオレ、理性なんて全部ぶっ飛んでる。
ひたすら腰を振って。
ただもう、目の前の身体だけ。
それだけに執着して、それだけに感じて。
ひたすらコウの身体だけを貪って…。
オレの汗がコウの上に落ちる。
まだだよ、コウ、もっともっと、気持ちよくなろう。
勃ちあがって震えるコウのそれも、握って扱いてやる。
コウが目をぎゅっと瞑って、首を振った。
「香澄…あぁっ…。香澄、何か…ヘン…」
「コウ…?」
荒い息とともに、コウは白い身体をくねらせ、何だかいつもと違った声を出した。
「もっと、あっ…やだっ。ああぁっ。何か…」
「なに、コウ…なに?」
「や…やめない…で。あぁっ!!」
コウの喉が反り返る。
「あっ! ああぁっ…」
どこかヘン…っていうか
な、なんか、メチャクチャ感じてるみたい。
どうしちゃったんだろう、こんなコウ、初めてだ。
すごくイヤらしい、エッチな快楽にあえぐ顔。
「ああっ…んっ…」
コウはオレの腰を掴んで引き寄せ、自分から動き始める。
殆ど無意識みたいだ。
「いい…香澄っ…。かすみ…。あぁっ」
オレは突き入れ、コウは絶妙のタイミングでそれを奥へと引き入れる。
その度にコウの口から上がる悲鳴のような、淫らな喘ぎ声。
オレもう、もうダメかも。
限界…。我慢、出来ないっ…。
コウの肉襞がきゅうっとおれを締めつける。
「やっ…ああっ! 香澄…ん…香澄っ!」
名前を何度も叫び、びくんと体を反らして、コウの先端から熱が弾けた。
同時にオレもコウの名前を呼びながら、コウの中に欲望を放つ。
何度も何度も、体が震えた。
背中が反って、ガクガクする。
射精の快感が、波のようにオレの中を走り抜けていく。
うそだろ、オレ。
コウの中に、こんなにたくさん…。
いきなり力が抜けて、がっくりと、オレはコウの上に倒れかかった。
熱い身体が重なって、コウの体臭がオレを包む。
発情してるコウの匂い。
セックスの時だけ感じられる、いい匂い。
だけどオレは、そのいい匂いの身体の上で、反応もできずにぐったりしてしまった。
信じられない。もうダメ。
いきなり力が抜けた。
なんだかヘロヘロ。
一晩中でもコウとヤッたろうって思ってたのに。
いやもちろん、ヤルつもりだけはあるけど。(←あるのか!)
復活までには時間がかかりそうだ。
オレはコウの上で、ぜえはあしてたんだけど
でも、ぐったりしているのはオレだけじゃなかった。
オレにのしかかられたまま、瞼を伏せて胸を上下させているコウも、オレ同様動けないみたいだった。
何も言わずに、唇を開き、ただ息を吸って吐く。
「コ…コウ?」
一瞬ちょっと気絶してるのか? なんて思ったけど(あんなに息を吐いて気絶もないもんだけど、あんまり静かだったからさ)
コウはぱちりと瞳を開けた。
長い睫毛に縁取られた真っ黒な瞳が、潤みながらオレを見つめる。
「香…澄」
声、掠れてる。
コウはもう一度瞼を閉じると、ふうっと息を吐いて、オレの背中に腕を廻した。
そのまま甘えるように、顔をオレにすり寄せてくる。
「香澄…」
「な…なに?」
「すごく…よかった」
「ホント?」
コウの首がこくりと動く。
「こんなに…」
あとの言葉は、口の中で小さく呟かれて聞こえない。
「何? コウ」
「こんなの…初めてだ…」
オレはどきっとする。
初めて? 初めてって何が?
「すごくヘンだ、香澄」
「へ、変って…」
「すごく、気持ち…いい」
ぼうっとした表情が、艶っぽくて、まだもちろん全然復活しそうもないのに、オレは思わず唾を飲んだ。
だけどオレが妙にドキドキしてるってのに、コウは唇を閉じて、それからすうっと息を漏らした。
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