Body Voice――近くにいることと、愛しあうこと
今日は時間がたっぷりあるから。
そう言って抱き合って。そしていつのまにか寝てしまったらしかった。
「ありゃ…?」
寝ぼけた声が出るのが、ちょっと恥ずかしいが、オレの隣で上半身起こしてこっちを見下ろしているコウの顔は、ほのかな明かりに映えて、えらく綺麗だった。
「うひゃ、オレ寝ちゃった?」
「うん…。少しだけ」
「なんだよ、寝顔見てたの?」
「早く起きないかなあ、と思って」
「起こしてくれればよかったのに。いま何時?」
時間を聞くと、思ったよりは早い時間だった。
まあ考えたら、明るいうちからラブホに入ったもんな、二回戦してちょこっと寝ても、まだまだ余裕か。
よっこいしょ、などとかけ声をかけて起きあがったら、コウがクスクス笑った。
「おっ、なんだよ」
「そんなこと言いながら起きるのは、オヤジだぞ」
「コウは言わないのかよ〜」
オレは頬を膨らます。
「言わない」
しれっとすました顔で、あっさり言いやがる。
ああ、そうだろうともさ。超美形はどっこいしょも、よっこらしょも言わないんだろうなっ。
「いいんだよ、オレは。早くオヤジになりたいの」
「どうして?」
コウの驚いたような瞳に、ニヤリと笑って、スッと伸び上がった。
「早く…コウくらいの年齢になりたい…」
唇を奪って、舐めて囁くと、コウは少し震えて陶然と瞳を閉じた。
そしてまるでオレの唇が甘いアイスででもあるかのように、今度はコウの方から唇をあわせてくる。
「…香澄が僕の年齢になったら、僕のほうがもっとオヤジだな」
「コウくらい綺麗なら、見た目は全然オッケーだと思うな」
「そう…なのかな」
「そんな先のことは、想像できない?」
「うん……」
小さくコウは頷いて、オレの腕の中で瞳を閉じた。
コウはいつだって、先のことを考えない。いつも今、今だけ。
そりゃ、先のことは実際にはオレだって解らない。
でも、コウのそれは少し違う気がした。
一歩先が、まるで漆黒の闇のように、何も見えないみたい。
そっと踏み出して、とりあえず今は大丈夫と息をつく。
でも、その先はやっぱり闇なんだ。
だから未来が怖いんだろう。
オレはいつかコウが、そんな思いをどこかで払拭できたらいいと思ってるけど。
でも、今がダメなら……。
オレはコウを抱きしめる腕に力をこめた。
ダメなら、オレにしがみついてろよ、って思う。
オレが踏み出す先は、闇じゃない。
たとえ闇に踏み込んでも、絶対そこから抜け出してみせる。
だからコウは、オレの腕の中にいればいい。
そんな風に思いながら抱きしめたら、コウは軽く息を吐いて、きつく抱き返してきた。
「コウ…?」
「ん…」
目を伏せているからコウの表情は解らない。
しがみついてろよ、って思ったら、ホントにしがみついてきた。
心を読まれた筈はないけど、でもこれだけタイミングがいいと、どうしたんだろうって思う。
抱き合うのは嬉しいけど、なんかコウ、ちょっとだけ変じゃない?
「コウ、大丈夫だよ」
よく解らないまま、そんなセリフが出てしまう。いったい何が大丈夫なんだか。
「だい…じょうぶ?」
「オレはその…ここにいるよ」
「未来は…怖い」
「怖い? どうして? どうしたのさ。オレ、ずっといるよ。コウの隣に」
「うん……」
コウはオレの腕の中で深いため息をついた。
それから息を整え、ゆっくりと瞳を開く。
澄んだ黒色の瞳に、オレの顔が映っていた。
「…ごめん、香澄」
「い、いーよ。気が澄むまで抱きついてていいから」
コウは小さく頷くと、再びゆっくりオレに身体をあずけてきた。
「どうしたんだ? コウ。まあ、コウが先を怖がるのはいつものことかもしれないけど」
「なさけない…」
「なにが?」
コウは再びため息を漏らす。
「香澄と離れたくないんだ」
うっ…、と一瞬言葉に詰まる。
ずいぶん直接的だけど。そういえば二回目終わった後も、身体、離れたくないって言ってたな。
その時は甘〜い雰囲気だったから、ラブラブ気分だったけど、なんかその、もう少し違う意味も含まれてるのだろうか。
オレがコウを好きだと言って。
コウもオレを好きだと言ってくれた。
だったらやっと、オレ達恋人同士になったんだよな。
(愛してる、がまだだから、少々危ういけど)
でも、一応ちゃんと恋人同士なら、もう少しこう、安定しないか?
なんでコウの奴、こんなに不安そうなんだろう。
考えてもよく解らなかったので、コウの肩に手を回し、頭を抱え込むようにして、ぎゅっと抱きしめる。
「オレだって、離れたくないよ」
「…香澄」
「なに?」
「隣じゃ…いやだ」
「えっ? 何のことだ?」
「隣じゃ、足りない。抱かれたい」
「えっ? あ、コ…コウ?」
「香澄、お願い…。僕の中に…」
一瞬でオレは真っ赤になってしまった。
いや、今更赤くなるのってどうだよ、って気もするが。
でも、すごく露骨じゃないか?
オレ、コウに言葉責めとか要求してないぞ。
しかし、すぐにオレは気づいた。
これがコウにとって、かなり切実だって事に。
よく解らないけど、抱きしめられているだけじゃ足りないんだ。
隣にいるだけじゃ不安なんだ。
コウの不安とは違うかもしれないけど。でもオレにも、気持ちは何となく解る気がした。
離れたくないよな。
それこそ一時でも。
隣よりももっと近くに行って、その人の全部を、一瞬でも逃したくないよな。
髪も、肌も、指先も、胸も。
全部を手に入れて。全部を抱きしめて。
一つになって、すべてをずっと感じていたい。
そんな気分で抱き合う時『愛しあう』って言うんだと思う。
ただのセックスとは、きっと違う。
コウもそれが欲しいんだろう。
でもそれはコウが怖れる「愛」だから。
だからコウは、こんな風に何かに駆り立てられるように欲しがり、そして
不安なんだろうか。
「香澄……」
「うん、そうだな。じゃ、バスルーム行こうか」
「えっ?」
腕の中のコウに、オレはニッコリ笑った。
「約束したろ? バスルームでローションプレイ」
「ああ…」
コウが不安なら、オレは笑おう。
オレが不安だった時、コウは笑って大丈夫だよ、と言った。
全然大丈夫じゃなかったのに、そう言った。
その言葉と笑顔がどれだけ嬉しかったか、どれだけ綺麗だったか、オレは覚えている。
だから、オレもそうする。
離れたくないならそばにいるよ。
抱いて欲しいなら抱きしめる。
言葉が怖いなら、身体で愛を語るよ。
オレとセックスすることは愛しあうことなんだって、そんな風に抱きたい。
上手くできるかどうかは解らないけど、でも。
そうしたらコウ、いつか愛が怖くなくなるだろう?
だって、コウがこれ程までに欲しがっている
『オレが一番近くにいること』と、
ひどく怖がっている
『愛しあうこと』
は一緒の行為なんだから。
言葉にするのが怖いなら。
コウにそれが解るまで、納得するまで、オレはコウの身体を愛する。
だってオレ達、身体から始まったんだ。
だから、いつか心が追いつくまで。
抱きしめて、喘がせて、つらぬいて、何度もイカせて。
身体から、愛を入れるよ。
コウの中に入って、ひとつになる。
オレはコウを、ぎゅっと抱きしめた。
ほんの少し不思議そうに、コウが首を傾ける。
「よーし、オレがまだまだオヤジじゃないって事、バスルームでコウに解らしてやる。覚悟しろよ」
キスをしながら大きな声で陽気に宣言したら、やっとコウは、うっすらと笑った。
「どんな風に?」
「そりゃー、その。行ってのお楽しみ」
バスルームに飛び込むなり、コウはキスしてきた。
オレはキスに応えながら、ちょっと身体暖めようぜ、とかなんとか言って水栓をひねる。
温かい湯の束が柔らかく肌を叩き、湯気がふんわりと冷えた身体を包み込んでいく。
気持ちいい。
バスルームのガラス窓が、あっという間に水滴で曇っていった。
温まったコウの身体にたっぷりとローションを滴らせ、広げていく。
肌を滑る指の感触に、コウは小さく身体を震わせた。
「感じる?」
「…すごく…。あっ…」
「全身塗るからな、コウはじっとしてろよ」
ほんのりピンクに染まった肌は、かなり敏感になっているらしい。
くすぐったいのか気持ちいいのか、肌の上を手が滑るたびに、コウは唇を噛んで微かに息を漏らした。
手のひらに吸い付いてくるくらい、きめの細かい滑らかな白い肌。
あれだけ色々ミッションをこなしていながら、これほど傷がついていないのって不思議だよな、なんて思いながら撫でていく。
白い胸にローションを塗り広げながら乳首を玩ぶと、コウは唇を結んで耐えるような表情をした。
抑えてる顔も色っぽいけど、オレは耳元で囁いた。
「別にいいよ…。声、出しても」
コウは小さく息を吐く。
「でも…香澄」
「じっとしてろとは言ったけど、黙ってろとは言ってないぜ、オレ」
「じゃあ…あ…」
「なに?」
「あまり…じらさないで…」
オレが中心部分にわざと触れずに、尻から腿に手を伸ばしたことを言ってるらしい。
「だって、そこ触ったら、さっさと終わっちゃうじゃん」
「でも…」
自らの中心に伸ばそうとするコウの手をオレは押さえ込んで首を振った。
「自分でやるのはダーメ」
「…だって」
「でももだっても無し。コウだってオレに触られた方が嬉しいだろ?」
コウはほんの少し躊躇ってから、小さく頷いた。
「…うん……」
「触って欲しいだろ?」
「触って、欲しい…」
長い睫毛を伏せるようにして、コウは素直にオレの言葉を繰り返す。
うう〜ん。
ちょっと言葉責めをしている気分になってしまいました。
だってコウの奴、言葉は素直なのに、恥ずかしがって目を合わせないんだもん。
オレがむりやりエッチな言葉言わせてるみたいじゃん。
…って、もしかして言わせてるのか?
そう思ったら、オレは何だか興奮してきた。
もう少しあちこち触ってじらそうかと思ってたけど、ちょうど前半分にローション塗り終わっていい感じだしな。
オレは舌なめずりをして、コウの上にのしかかった。
「じゃあ、こんなのはどう?」
コウは一瞬、えっ? という顔になる。
触る宣言をしたのに、急に身体を寄せてきたから意外だったんだろう。
でも、かまわずオレは浴槽の中でヌルヌルになったコウの身体に覆い被さり、肌をピッタリ密着させる。
そのまま身体を擦りつけると、コウは大きな声を出した。
「香澄……なに…。あぁっ」
もちろんオレはリクエスト通り、触って欲しがってたコウのアレに、わざと自分のを擦りつけるようにして下半身を動かす。
あっという間にコウの息は弾み、快感の喘ぎ声が唇から漏れた。
「香澄…。ああっ。いい…。はっ……。もっ…と」
コウの腕が背中に周り、オレの身体をぎゅっと抱きしめる。
すごく、いい声。肌も熱い。
息が耳元にかかり、オレはメチャクチャ興奮した。
しがみついてくるコウの身体をぐいぐいと揺らす。
「香澄…熱い。悦い…すごい…。あぁっ」
息を吸った瞬間、オレの下でコウはびくりと背を反らした。
「あっ…。あああっ…。香澄……っ」
「えっ? コウ、もうイッちゃった?」
「あっ。あああ…。んん…」
恐ろしく色っぽい声を漏らしながら、コウの身体は震えた。
背中に回された指に力が入り、眉がせつなげにひそめられる。
中に挿れてたら、イッた瞬間きゅーっと締めつけてくるから一発で解るんだけど。
でも、挿れてなくてもコウがイッたのは解った。
だって、すげえいい顔なんだもん。
思い出して、後で何度も一人エッチできちゃうくらい、メチャメチャそそる表情と、声と。
そして甘い息。
「ああっ…はあっ。香澄…」
コウの身体から力が抜けて、ゆっくりと浴槽に沈む。
「香澄…今の、なに?」
「えー? ローションプレイってこういうんじゃないの? ローション塗った身体を身体に擦りつけて〜、サービス、サービスって」
「そう…なのか?」
「いや、本当は知らないけどさ。でも、気持ちよかったろ?」
「……うん」
コウは少しボーッとした顔で、素直に頷く。
よろしい、とっても可愛いぞ。
ホントコウってば、セックスの時は妙に素直なんだよなあ。
「普段のエッチでも、身体は密着しているわけだけどさあ。ローションでヌルヌルになってる分、より密着感があるっていうか、まあわざとくっつけて擦ってたわけだけど〜……うひゃっ!!」
最後のうひゃっ、はコウがオレのを触ってきたからだ。
コウをイカせていい気分でベラベラ喋っていたオレだが、オレ自身はイッてなかったので、あそこはビンビン状態のままだ。
それに気付いたコウが、手を伸ばしてきたわけだ。
「香澄、すごく熱い…」
ゆっくりと、長い指で形を確かめるようにオレのを撫で回す。
き、気持ちいい。
コウは身体を起こすと、切なげなため息をついてオレのそこを本格的に愛撫し始めた。
「香澄、舐めたい。舐めていい?」
一度イッた後のコウは、前よりずっと色っぽくなる。
熱で目が潤み、唇が濡れる。
開いた口からかすかに覗く、湿った舌が淫靡に蠢く。
オレはもう、ツバを飲み込んで、大きく頷いてしまった。
だってその口、いやらしすぎるよ、コウ。
そんなんでしゃぶられたら、あっという間に昇天しちゃうよ。
コウはオレが頷いたのを熱い瞳で見つめ、脚の間に頭を落とす。
先端を唇に挟んで軽く舌を蠢かせ、それからもう限界まで張り切ったオレのモノを、ゆっくりと呑み込んだ。
ねっとりと舌が絡み、唇が吸い上げる。
唾液としゃぶる音が、浴槽にイヤらしく響く。
「コウ……」
あんまり気持ちよくて、つい頭を押さえ込んでしまう。
こういうのが苦しいのは解ってるんだけど。
でもコウは唾液を滴らせて、オレのをきゅうっときつく吸い上げてくれた。
「……うっ。コ、コウ」
コウの舌は敏感な先端を舐め続ける。その刺激に、オレは震えた。
「あのさ、早いかもしれないけど……な、なんか限界なんだけど。口の中にでっ……」
自分で頭を押さえつけたくせに、今度は離そうと試みる。
このまま口の中でイッちゃうのもいいんだけどさ……。
オレの気分が解ったのか、それとも自分でそうしたくなったのか、コウは唇を離した。
そのまま腰を上げて、オレの勃ちあがったモノに指を添える。
「香澄……」
欲情したうるんだ熱い瞳に、掠れた声。
舌なめずりしたコウは、そこに跨がって、ゆっくり腰を落としていった。
「……あっ。ぅうん…」
目を瞑って、睫毛震わせて、身体の中にオレのを呑み込んでいく。
メチャメチャ刺激的。
全部入れると、コウは自分からゆっくりと動き始めた。
「んん…香澄……あぁっ。巨き…」
抜き差ししているうちに、喘ぎ声が唇から漏れはじめる。
オレはコウの尻を掴んで、腰を動かした。
もちろん、いいところに先端があたるようにだ。
途端にコウの声が高くなった。
「っ……ああっ、ああっ。気持ち…いい。香澄っ」
コウは腰をうねるように動かして、奥にあたるたびに身体を震わせる。
すげー、コウ、よさそう。
オレが下ってのは、それほど好みじゃないけど、でもコウがこれだけ気持ちよさそうなら、それでもいいかって思う。
しかし、思ったところでコウが薄く瞼を開いてオレにねだった。
「香澄…上から」
「え? んん?」
「上から犯して…。香澄の…ものに…されたい」
そんな目でおねだりされて我慢できるわけがない。オレは即座にコウを組み伏せた。
といっても、狭いバスタブの中で正常位は難しいので、後背位でのしかかる形になる。
身体を押さえつけ、腰を掴んで深く突き入れて、ぐいぐい抽送を繰り返した。
「ああっ……」
オレに上から責められるのが、コウは嬉しそうだった。
「香澄、ああっ。……」
嬌声と共にコウはどんどん乱れていく。腰が揺れて、勃ちあがったモノから透明な快楽の印が滴って性器を滴り落ちていく。
オレは荒い息をつきながら、コウのそれを掴んで、激しく愛撫した。
途端に悲鳴のような声があがり、ますますオレを煽る。
コウ……。
オレのものになりたいって?
本当に? マジで?
だったらオレ、本気でそうするよ。
コウがオレに征服されたがってる。
それはオレの中の獣を、ひどく淫靡に刺激した。
END
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