地獄より熱く、愛より甘く3
ほんのちょっとした悪戯心だった。
この身体を抱いてみようと思ったのは。
コウは、疑うことをしない子供だった。
『疑うことを知らない』なんてよく誉め言葉みたいに言うけれど、疑うことをしないのは、はっきりいって馬鹿だ。
だが馬鹿な子程可愛いというのは、これは本当かも知れない。
それにコウは、確かに見た目は非常に可愛い子供だった。
黒羽夫妻に近づいたのは、もちろん目的あってのことだ。
オレの望み。手に入れたいもの。黒羽夫妻は、そのヒントを持っていた。
それを手にしたら、世界を手に入れることもできると思う。
世界を手に入れてどうする? そんな事は問題ではない。単純に『欲しい』のだ。手に入れたらどうすることもできる。維持して育てることも、飽きたら壊して棄ててしまうことも。
何かを手に入れることは、常にゲームだった。
ゲームは面白いことだけに意義があるのだ。
世界を手に入れるゲームは、きっと一番面白いに違いない。
そして更に言うなら、この手に力を握っているという実感、例えば銃を手にする時の快感に近いものが、そこにはあるだろう。
オレの銃をすべての人々に突きつける。
命が手の中のあると思う瞬間。ぞくぞくした。
抱きしめてもいいし、潰してもいい。
コウの身体を支配することは、それと同じような快感を味合わせてくれる。
オレが手にするだけの価値がコウにはあった。
あれはオレの美しい銃だ。
上手く引き金を引けば、命も快楽も、オレのものになる。
価値あるものだけが、征服する喜びを持っている。
コウは最高の玩具だった。
綺麗で、驚くほど人の視線を惹きつける子供。
そして黒羽夫妻の心をこじ開ける鍵。
そんなものとして、オレはコウを見つけた。
コウが黒羽夫妻の子供でなかったら、オレはコウに出会わなかっただろう。
だからこれは運命なのだと思う。
最初からコウはオレのものになるべく、用意されていたのだ。
黒羽夫妻を殺した時に、オレはコウをオプションとして手に入れた。
綺麗で、かわいくて、馬鹿なオレの人形。
優しく声をかけてやったら、泣きながらしがみついてきた。
可哀想にな、コウ。
お前の両親はオレが殺しちゃったのだから、オレが代わりに愛してあげるよ。
両親が死んで、ただ呆然としているコウに、オレは優しく接した。
優しくて頼れるお兄さん。たった一人コウを思ってくれる人間。それがオレの決めた役だった。
コウは、今まで以上にオレになついた。
まるで犬だな、と思う。何でも言うことを聞く、忠実で甘ったれな大型犬。
そう、思っていたよりでかくなったのは期待とは違っていたが、それならそれで更に使い道があった。
ただ綺麗にニッコリと微笑んでいるだけの人形は、つまらない。飾っておいて、あとは壊すだけしか楽しみがない。
だがコウは驚くほど優秀だった。
特に身体能力。たいして身体も出来ていないうちから、体力、反射神経、動体視力、バランス。何をとっても飛び抜けていた。
面白くなって銃を教えた。
そして…人の壊し方も。
コウは乾いた砂が水を吸い込むように、何でもすらりと覚えていき、一度習得したものは決して忘れなかった。
へえ、と思う。
誰もが振り向く美貌に、内に秘めた力。
オレに認められたくて、褒めると嬉しそうに頬を紅くする。
優秀な道具で、美しい人形。
とっても好いよ、コウ。
なんて魅力的なオレの玩具。
セックスでも使えるだろうか?
そんな悪戯心が、ふっと頭を過ぎっていった。
身長は高くなったが、腰は細い。
肌は白く、女の子のように滑らかだった。
もちろんその顔は、どんな女よりも美しい。
セックスの相手としては、これ以上ないほどの上物。
そして…。オレはコウが、オレの事を意識していることも知っていた。
可愛いね。
自分の気持ちを必死で抑えつけて。
恋愛とセックス。そんなものに一番興味がある頃だろうに。
なのに押さえつけて、隠して。それでも漏れ出てくる秘密を必死で踏み隠そうとしている姿が、本当にバカで可愛い。
オレは何度もコウを抱きしめてやったが、セックスはコウが18になるまで待った。
じらすのも楽しかったが、子供を抱いたってつまらないと思ったのだ。
オレにはロリコン趣味はなかった。
純粋な嗜好ならともかく、大抵のロリコン男は、単純に自分より弱いものを支配したいだけなのだ。そんな脆弱な感情は、オレには無縁のものだった。
「これはプレゼントだよ、コウ」
オレは初めての日、あの子にそう言った。あの子の18の誕生日だった。
オレの他に祝う者もないバースディ。オレがずっとあの子が親しい友人を作ることを邪魔してきたから。
コウは驚いたような顔をしたが、キスをしたら、そのままそっくり身体をあずけてきた。
オレが欲しかったんだろう?
押し殺してきた欲望を、オレが許してあげるよ。
「コウはオレが好きだろう? オレもコウが好きだよ」
身体を繋ぎながらそう言ったら、あの子は嬉しそうにしていた。結構痛かっただろうに。馬鹿だな。
「コウがいい子でいたら、また抱いてあげる。こうやって」
乱暴に突き上げると、小さく悲鳴を上げながら、それでも腕を伸ばしてオレに縋ってきた。
「コウの中を、愛してあげるよ。すごく良い。コウのここ」
繋がった部分にふれると、恥ずかしそうに顔を赤らめ、目を瞑った。
疑うことをしないコウ。
だから、愛してるよ。
ホントにかわいい。
抱いたのは確かにほんの悪戯心からだった。しかし、コウを抱くのは思ったよりずっと楽しかった。
「ああっ、りょ、ういちっ」
イク時は必ずオレの名前を呼ぶこと。
声を出すことをためらわないこと。
いつでも、どこでも、オレが求めたら必ず応じること。
ひとつずつ、オレはコウに教え込んだ。
心と一緒に身体も支配していく。
ベッドの上で、オレが与える新しい刺戟に乱れる姿が堪らない。
味も、最高だ。
こんな身体には、そうはお目にかかれない。
昼は清楚な顔をして、ベッドの中では快楽に熱く溶ける。
厭らしいそんな身体にしてあげるよ。
綺麗で感じやすいくせに、いつでも初々しさを失わない。
オレの大事なセックスドール。
他の女も男も、誰も近づけさせない。
だが、時々は見せびらかしたくなる。
なにしろオレの最高の作品だ。誰かに披露して自慢できなければ意味がない。
オレは時折コウを外に連れ出した。
コウはほとんど砂城の外に出たことがない。外ではいつも不安げにしている。馬鹿だな。
ここがノーマルな世界なんだよ。空には蓋がなく宇宙まで拡がり、地には果てがない。人間の暮らす、当たり前の世界だ。
砂城のアンダーは狭い。
西署の黒羽高はちょっとした有名人になっていたから、あまり人目に触れるようなことはできない。逆に外の世界には砂城の内情は知られていなかったから、ここでは何をしても良かった。
黒羽は身体の前後に男を受け入れて、苦痛とも快感ともつかない感覚に身を任せる。
「いいだろう。コウ。ホントにえっちな子だね。こんなに深く呑み込んで、まだ足りないみたいだ」
冬馬は、男を受け入れている黒羽のその部分を覗き込んで笑った。
恥ずかしくて、身体が熱くなる。
涼一に見られていることが?
それとも見られて、感じてることがだろうか。
自分が本当にこんなことをしたいのか、黒羽はわからない。
知らない男のペニス。貫かれて、突き上げられるたびに訳が解らなくなる。
だけど、涼一がそういうのだから、そうなんだろう。セックスのことは、よくわからない。これが、気持ちいいのか、嫌なのか。
自分より、涼一の方がきっとよくわかってる。
涼一に抱かれるのは好きだった。
身体を繋げて、涼一を近くに感じる時は幸せだと思う。そんなことを言ったら、涼一は女みたいだって、嗤うだろうけど。
でもこんなのは、普通じゃない。
涼一は僕を他の男に抱かせたがる。抱かせて、それを笑って見ている。
楽しいんだろうか。
僕は、涼一が他の男としているところなんか、見たくない。
もともと普通じゃないんだ。
男同士でセックスするなんて。
涼一のを、あんな場所に突っ込んで欲しいと思うなんて。
でも、涼一に抱かれて、全部涼一のものになって、涼一でいっぱいになっていく、あの感覚。
どこまでも熱く、痺れていく。
あのギリギリに切れそうな、高揚感。
だからこの行為だってその延長だと思えばどうってことない。
涼一に抱かれているのとは全然違うけれど、でもやっていることはたいして変わりはない。ちゃんと感じて、射精だってする。
涼一が言うように、僕はこれが好きなんだ。
数人の男たちが、次々と黒羽の身体を征服し、貫いていった。
だんだん頭が痺れてくる。
身体で感じることしか、もうできない。
冬馬の手が、黒羽の勃ちあがったものを玩んだ。そのまま扱き始める。
「こんなになってるよ、コウ。厭らしく勃ちあがって、ぬるぬるだ」
黒羽の口から小さく声が漏れた。
「ダメだよコウ。もっと声を出して。悦いって、言ってごらん。そうしたら、イカせてあげる」
「い、いよ。悦い…涼一。すごく、いい」
「もっといっぱい挿れたいだろ? コウ」
「うん…、挿れたい」
「厭らしい穴だなあ。もう、中も外も精液でぐちゃぐちゃだよ。まだ挿れたいの?」
「挿れたい…。ぼくの、厭らしい穴に…いっぱい挿れて」
「もう一本くらい、入りそうだな」
笑いながら冬馬は、男の身体の上に跨ったままの黒羽のそこに指を突っ込み、拡げてみせる。
冬馬の指が、中を掻き回す。男のモノを受け入れているそこを。
気持ちいい。指で触られるだけでも。
涼一としたい。このまま、あんたのを突っ込んで。
だが冬馬の言葉は黒羽をがっかりさせた。
「ほら、もう一人来いよ」
それでも二人を受け入れて、黒羽はまた昇りつめる。冬馬にキスされながら。
「いい、悦い…。涼一。あっ。ああぁっ…」
叫び声と共に、冬馬の手の中で黒羽は達する。
その日、冬馬は黒羽を抱かなかった。
疲れた身体を引きずって、ようやくシャワーを浴びる。
男たちの残したものが、脚を伝って流れ出る。黒羽は顔を顰め、乱暴に自分の中を洗った。
ことが終わるといつも、後悔とも嫌悪ともつかない気持ちがちくちくと胸を刺す。
考えたくない。
嫌だ、とは思いたくない。
この気持ちは、ほんの少しの気の迷いだ。
僕は涼一を愛してる。
涼一の望むことなら、嫌なはずがない。
だって、涼一は優しい。
僕を好きだと、言ってくれる。
他の誰も、そんな言葉はくれない。
僕の好きだったものは、みんな無くなってしまった。
父さんと母さんが死んだ時に。
僕に残ったのは、涼一だけだ。
涼一を失ったら。
考えるのも嫌だ。
でも、考えずにはいられない。
いつか両親のように、涼一も僕を置いて行ってしまうんじゃないか。
あまりにも恐ろしいその考えに、ぞっと体を震わせる。
それは黒羽が最も恐れることだった。
だから、涼一を失わないためなら、僕は何でもする。
涼一が好きだから。
だから、これも好きなんだ。
嫌、だなんて思っていない。
思っていない。絶対に…。
そうして。
それを見ないようにし続けることで、黒羽はあらゆることに対して目を塞い
でいくことになったのだった。
END
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