−sight&voice−
僕は香澄の下で、彼の顔を見ていた。
唇がさっきから、ずっと僕を誘っている。
僕を呼ぶ声。僕の名前を形づくる唇。
心地よい声をずっと聴いていたいけど。
その唇を塞いで、彼の声を自分だけのものにもしたかった。
香澄……。
ずっと君のことばかり、君に抱かれることばかり考えていたから。
熱く身体が疼いている。
ついに我慢できなくなって身体を起こし、下から伸び上がってキスをした。
夢じゃない。夢ではキスはできなかった。
唇を舐めて軽く吸い、それから舌を差し込む。
たちまち香澄の息が荒くなり、積極的に舌を絡めてきた。
唇と舌の感触がひどく気持ちいい。
香澄…。舌を絡めながら彼の胸をまさぐる。
僕の好きな身体。
胸から鍛えられた腹筋。そして更に下に手を伸ばす。
そこに硬くそそり立っている彼のモノを探り当てて、嬉しくなった。
僕への欲望の徴。
香澄が僕を欲しいと思っている。
『セックスするだけの相手なんだろう?』
香澄の言葉がひどく痛かった。
けれど僕は、ぶつけられた言葉に、結局答えは出せなかった。
なぜ痛いと思うのだろう。
セックスするだけの相手ではない。香澄はパートナーなのだから。
逆にパートナーだから、セックスすることにどこか罪悪感があるのかもしれないとも思う。
でも僕は、今までのパートナーとだって、必ず一度は寝ていた。
だから僕は最低なんだろう。
いつだって衝動のままに、身体が求めれば誰とだって寝るのだ。
今は香澄に抱かれたくてたまらないし、欲望を抑えることが出来ない。
香澄の舌が唇から首に、胸にと下がっていく。
シーツの上に、どさりと押さえつけられ、体重がかけられる。
身体中が期待にゾクゾクと震えた。
香澄。どうして君とセックスしたいのだろう。
単純な欲望?
近くにいる男に、ただ身体を満たしてもらっているのだろうか。
でも、だったらどうして僕はここまで香澄に逢いに来た。
どうしてあれほど、香澄に逢いたかったのか。
南署で僕は優しくしてもらったのに。
たくさんの人に囲まれていたのに。
でも僕は、ずっと独りだったような気がしていた。
香澄を抱きしめる。
肌の隅々まで、触って欲しいと思う。
今は、君と僕の二人だ。
そして、早くひとつになりたいよ。
「香澄…はやく。欲しい。早く、挿れて…」
足が高く抱え上げられ、香澄の熱さが押し当てられる。
はやく、香澄。
僕をいっぱいにして。
ゆっくりと挿入ってくる。
香澄の欲望が、僕を犯す。
その感覚だけで、僕はイキそうになった。
結局僕は、ひどく弱いのだろう。
香澄はそんな弱さに、時には腹を立てる。
けれど同時に、キスをして抱きしめる。
香澄……。弱さを知られることは、やはり恥ずかしい。
子供の頃の君には、決して見せることが出来なかった。
今だって見せたいと思っているわけではないのだ。
なのに気がついたら、君はスルリと僕の中に入り込み、隠しておきたかった弱さを引き出していく。
僕は動揺し、混乱し、こんな風に君にしがみつく。
なんて情けない男だろう。
なのに同時に、僕はどこかでホッとしていた。
僕はもしかして、甘えているのだろうか。
彼の強さに? 彼の光に?
僕はいつからこんな風に、香澄に甘えているのだろう。
「コウ…」
「うっ……んん」
香澄の吐息が、次第に早くなっていく。
優しいキスが僕の思考を溶かし、もう何も思い出す事が出来なかった。
「ああっ…ああっ。あっ……」
足を抱え上げられ、何度も突き上げられる。
何も考えられない。
今はただ、香澄と身体をつなげて、熱に溺れたい。
身体中に触って、キスして欲しい。
香澄の熱さを身体の奥に感じながら、頭の中は真っ白になっていった。
「う……ぅんん…あああああぁっ!」
悲鳴と共に、香澄の手の中に欲望を放ち、快楽に震える。
「ああっ…。はぁっ……はぁっ…」
「すごくエッチだよ。コウ…」
耳元で囁かれる声に感じる。
声が、僕の耳を犯す。
「香澄……かすみっ」
香澄の手の中で、自分自身がまだビクビクと震えていた。
「もう少し。全部、でてないよね、コウ」
ぐいと身体を深く入れて、香澄は抽送を続ける。
熱く巨きいソレが、更に力強く身体を穿ち続けた。
再びいいところを擦りあげられて身体が跳ね、唇から声が漏れる。
「いい…香澄…すごい。かす…み」
ギシギシと激しく軋むベッドの音が、僕の身体を追い上げていった。
「コウ、好きだよ」
香澄、もう一度。もう一度言って。
君の声で。君の身体の下で。
君を感じながら聴きたい。
君が僕の名前を呼ぶ声を聴きたい。
「コウ」
ささやく声。
「コウ、オレを見てよ」
「かす…み?」
激しく突き上げられる感覚だけに溺れていた僕は、どこかに飛んでいきそうな意識の欠片を、何とか拾い集めて瞼を開く。
香澄が上から、欲情に潤んだ瞳で僕を見ていた。
香澄の瞳に、君に抱かれてる僕の姿が映る。
君に貫かれて、喘いでいる僕の姿が…。
僕は香澄の腰に脚を絡めて、より深く彼自身を呑み込んだ。
すごく気持ちいいよ、香澄。
君が欲情しているように、僕も君が欲しい。
ずっと二人になりたかった。
そして、ひとつになりたかった。
香澄。君だけを見ているから。
だから、その唇を開いて名前を呼んで。
声で僕を犯して。
香澄は優しい顔をして、ひどくいやらしいことを言った。
僕はその言葉に欲情して、震えながら達した。