My Only Sunshine
「ううう…干した布団に寝たい」
突然の白鳥の呟きに、黒羽は首を捻った。
寝ころんで読んでいた雑誌から顔を上げて、もの問いたそうな瞳で白鳥を見つめる。
白鳥香澄は、握りしめていたゲームコントローラーから手を離して、ため息をついた。
休日に男が二人、狭い部屋でゴロゴロしている。
そんな図にはあまり美しい印象はないが、せっかくの休日だからこそ、逆にゴロゴロしていたいと言う時もある。
遊びに出かけて、すぐまた次の日は仕事、の繰り返しでは体も保たない。
それに、男二人と言っても、二人ともかなり見栄えはいいほうだった。
特に寝転がっている黒羽 高の方は、部屋でどんな格好をしていようと、誰でも思わずうっとり見惚れてしまう程の、かなりどころか、最上級の美人さんだ。
ゴロゴロしてようが、狭い部屋だろうが、彼さえいれば、なんだってオッケーな気分になってくる。
特に白鳥にとってはそうだった。
ううん…。
コウってば、そういう何か聞きたそうな顔が、オレを誘ってるって解ってる?
仕事の時に見せる、隙のない怜悧な刃物のような印象とは違う、少しぼんやりした甘い美貌がこちらを見上げる。
ああ…。
さらさらと額にかかる黒い髪を指で上げて、キスしたい。
それからメガネを取って、ベッドに押し倒して…上から…。
そこまで考えて白鳥はブルブルと首を振った。
まじい。ちょっとだけ下半身にせり上がってきちゃったぜ。
そりゃあオレとコウは恋人同士なんだし、そーいう気分になったとしても、コウさえオッケーならヤっちゃったとしても何の問題もない。
そうだよな。別に悪い事を考えてる訳じゃないんだ。
フツーだよ、フツー。恋人なんだもん。男同士だけどさ。
そうは思うけど、出来るならこの部屋ではやりたくない。
だって一応ここ、警察の独身寮だし。
オレ達の関係は、当然の事ながら『秘密』だし。
人の個室のドアをいきなり開ける奴もいないとは思う。
それに何度かここで行為に及んだ事を考えると、今さらって言う気もするが、ここでするのってやっぱりオレとしては落ち着かない。
そりゃ、仕事の性質上皆が一斉に休日を取る事はないのだが、それでも寮にはたくさんの同僚がいるわけで。
明日も同じ職場で働く同僚達が、ぞろぞろいる真ん中でエッチするなんて、オレじゃなくてもちょっと考えると思う。(ちなみにコウは、ゼッタイそういうデリケートな事は考えた事もないに違いない←断言)
落ち着いてやるなら、やっぱ外だよ、外。
ホテルかどっかで二人っきりになって、ゆっくりじっくり時間をかけて…。
さっきまで全然違う事を考えていた筈なのに、いつのまにかどこで黒羽とセックスするか、という話に頭の中ですり替わっている事に、白鳥は気付いていなかった。
まあもっとも、瞬時に下半身に気持ちが飛んでしまうのは男のサガだ。
男はいつだって、チャンスさえあればヤりたいと思ってるし、ましてや白鳥はまだ21歳。
たいていの場合、欲求は少々持て余し気味だった。
「干した布団って、なんだ? 香澄」
だがそんな白鳥の、ヘアピンカーブを曲がり損ねて遠くまで吹っ飛んでいった思考の糸を元に戻したのは、他ならぬ曲げたその原因本人、黒羽だった。
相変わらず床に寝ころんだまま、軽く首を傾げながらメガネ越しに上を見上げる。
白鳥の下半身の事情には、まったく気付いていそうにない。
「はっ! そういえばそうだった。オレ、その事を考えていたんだよ」
「だから、干した布団って、何?」
「干した布団って、そりゃー、干した布団だよ。他になんて言えばいいのさ」
「梅干しみたいにか?」
うううう。それは違う。
どうやらコウの頭の中には、干しぶどうとか、乾燥プルーンとか、そういうものが展開しているようだ。
「そうじゃなくて! 夜寝汗かくと、布団が湿気ってくるだろう? それを外に出して乾かすの」
「外に出したら、埃がつくだろう」
「つくけど、でもはたけばいいじゃん。ていうか、埃をつけるために外に出すんじゃないって。お日様の光に当てるんだよ、布団を」
「それは、何か意味があるのか」
「………」
そう、ここ砂城のアンダーは地下の空間に造られた都市だ。
とっても良く出来た人工の青い空が頭の上には広がっているけれど、でも太陽の光は無かった。
太陽の光が射さない地下で、布団を干す習慣がある筈がない。
生まれも育ちもアンダーで、しかも殆どここを出た事が無いコウには、想像の範疇外なのであろう。
「ええっとねー。どう説明したらいいんだろう。太陽の光には、殺菌効果があってさ。うーん、布団を干す意味って、その…」
ダメだ。相変わらず説明上手くない。
でもどうしてオレ、布団を干す意味とか意義とか、コウに説明しなくちゃいけなくなってるんだ?
「だからぁ、そのっ」
白鳥は大きく手を振り回す。
「布団をお日様にあてて干すとな、寝た時にとっても気持ちがいいんだよ。ふかふか暖かくて、ふんわりしてて、お日様のいい匂いがして…」
「太陽に…匂いは無いだろう…?」
何だか遠慮がちにコウが切り返す。
太陽に匂いなんかある筈がないとは思うが、キッパリ言うとオレの機嫌が悪くなると、そう思っているようだ。
もちろんオレの機嫌はちょっと悪くなった。
「太陽の匂いじゃないよっ。どうやったら真空に浮かんでる火の玉の匂いを嗅ぐ事が出来るって言うんだコウはっ」
「そうだとは思った…」
「思ったら言うな。お日様の匂いってのはさ、コウは知らないと思うけど、あああっ。匂いの説明なんて出来るかっ」
ちょっと支離滅裂気味のオレは、何だか何が言いたいのか、だんだん解らなくなってきてしまった。
「とにかくっ!」
「とにかく香澄は、太陽の光にあてた布団に寝たいと、そう言うわけだ」
「うん、そう」
「なるほど、よく解った」
コウは納得して頷くと、再びさっさと読書の世界に入り込んでいった。
おいおい、もしもしコウ?
オレに散々説明させといて、納得したらそれでお終い? そりゃあ砂城のアンダーでお日様を求めようってのは無理な話ではあるけれど。
「コウは、興味ない?」
「何に?」
メガネ越しにチラリと視線が上がる。
「お日様に干した、ふんわりした布団」
「知らないから、興味の持ちようがないな」
うっ、くそっ。冷たい言い方だぜ。
大分優しい雰囲気になってはきたものの、まだ時々コウのこういった物言いにズキッと来る事がある。
「ああ…そ。そうですか…はああ」
オレは何だか意気消沈して、テレビ画面に視線を戻した。
どうしようかな、このゲーム途中でセーブして、そのままふて寝するか?
地下でお日様を求めようとするのが間違っているんだろうしな。
「香澄…」
その時背中の辺りに暖かいものが触れた。
いつの間にやらコウが起きあがって、後ろにくっついてきたらしい。
「ん…」
コウの唇が、オレの首筋に触れる。
手が後ろから回って、ズボンのベルトにかかった。
「こ、コウ?」
「しよう、香澄。退屈なんだろう?」
「えっ? えええっと…」
いやその。なんでいきなりそういう展開になるわけ? 嬉しいっちゃ嬉しいけど、オレさっきここでは出来るだけしたくないって思ったばかり…。
なーんて思っているうちに、あっと言う間にコウの手はズボンの中にすべり込み、オレのものに絡みつく。
「あっ…」
どんな事を頭で思っていようと、下半身にはまったく関係がないらしい。
オレの分身は、たちまちコウの手の中で体積を増していった。
「香澄…」
コウはその感触を楽しむように、オレのモノを玩ぶ。
「コウ、オレさ」
「すごいな。こんなになってるぞ」
掠れた色っぽい声が耳元で囁く。
うわー、うわー、ちょっとタンマ。そんな声で囁かれたら。
「オレ…ここじゃちょっと…あのさ、やるならもっとその…」
「香澄?」
首を傾げながら、黒羽は白鳥の頬にキスをして、唇に舌を這わせてきた。
それから、微かに不満の混じった問いが、白鳥の耳に吹き込まれる。
「…香澄、僕としたくないのか?」
ぷちっ。
何かがふっきれた音がした。(←理性でしょう、きっと)
したいっ!
もちろんしたいっ。
めちゃめちゃしたいですーーーーっ!!
オレは猛然とコウを押し倒すと、がんがん服を剥いでいった。
ボタン外して、シャツめくり上げて、ズボンも引き抜く。
ああああっ。何やってるんだオレ。寮で獣モードになってどうするっ。
でっ、でももう止まらないーっ。
「香澄、ベッドで…」
コウがオレの服も脱がせながら囁く。
そう、そうだな。床じゃ硬いもんな。背中痛いし、ゆっくり出来ないし…。
っていうか、大体この部屋じゃ、もともとゆっくりなんて出来ないんだよ〜。
という内心の声とは裏腹に、オレ達はベッドに転がり込んだ。
もういい。
ここまで来たら止まれる筈がない。
最後まで行っちゃう、オレ。
オレはコウの上に覆い被さりながら、その白い肌に舌を這わす。
「ん…ああ…」
たちまちコウの唇から、吐息が漏れ始める。
なめらかで、しっとりと手に吸い付く最高の肌。
真っ白な胸に、そこだけ色の付いた小さな乳首がオレを誘う。
オレはそれを口に含みながら、下の方に手を伸ばした。
手はさっきからオレの腹に当たっていた、コウの欲望の徴を探り当てる。
それを握ってコウがやったように指を動かすと、その体がびくりと震えた。
「かす…み…」
耳元で息が早くなる。
コウが感じてる。
そう思うと、オレはますます興奮してきた。
男の身体に欲情してる自分なんて、前は想像もつかなかったけど、今オレのした事でコウの身体が喜んでるのを見ると、そんな事はどうでもよくなってくる。
他の誰も敵わない、とびきり綺麗な顔。
黒い髪が額にはりつき、唇が微かに開く。
白い肌、薄く色の付いた乳首。オレを誘う身体。
そしてサイコーに良い、あそこ。
どこもかしこも、全部オレの好みだ。
これでもう、あと少しオレの方の背が高かったら…とかは考えてもしょうがないので無視する事にする。
いいんだ。こうやって横になれば、背の高さは気にならない。
コウは、オレにされるのが嬉しいんだよな。
たっぷりジェルをつけた指を2本コウの中に挿れる。
抱かれる事に慣れているコウのそこは、簡単にそれを受け入れた。
指を動かして中を探ると、コウが微かに声をあげて、オレにしがみついてきた。
ゆっくりと出し入れしながら、中を探り、コウの反応を楽しむ事にする。
「あっ…」
いい所に触れたらしく、身体がびくりと跳ねた。
オレは声があがった所を中心に中を攻めていく。
「うっ…あ、ああ…」
コウの少し掠れた声が、メチャクチャ艶っぽい。
「香澄、お願い…」
我慢しきれなくなったのか、コウがそこを押しつけるようにして、行為をねだってきた。
「だめ」
お願いなんて聞いてやらない。
いつもお願いされちゃうと、オレはすぐ突進しちゃうんだから。そろそろオレだって少し余裕をもってじらしてだな…。
とか思った瞬間、コウの指がオレのモノに絡みついてきた。
うわわっ…。
よ、余裕なんて嘘ですーっ。
ある訳無いだろそんなの。ちょっとコウをじらしたかっただけで、触られたりしたら、オレッ…!
挿れる前に果てるなんて情けない事になる前に、オレはコウの手から急いでナニを引き抜き、さっきまで指の入っていた部分に当てて、一気にコウの中に押し入った。
「ううっ…ぁああっ」
しまったーーーーっ!!
オレは慌てて手でコウの口を塞ぐ。
コウ、声でかい。でかいってばーっ。
誰かに聞かれてないだろうな。
心の中では非常ーーっに慌てながら、一度挿れてしまったら、もちろん腰の動きは止まらない。
片手でコウの口を押さえ、もう片方で足を持ち上げ、コウの中を突き上げる。
「ふっ…う…」
掌の下から、微かに漏れてくる甘い息が、更にオレを駆り立てた。
「う…香澄、いい…あ…」
ベッドが軋み、オレを全部受け入れて、コウの体が揺れる。
オレもいい。すごく…。
コウ。すごく良いよ。
メチャクチャ気持ちいい。コウの身体。
コウも、オレにされて、感じてる?
オレとするの、気持ちいい?
返事の代わりに、コウの指がきゅうっとオレの腕を掴み、あそこが熱くオレ自身を締めつける。
コウ、コウ。オレ、あんたが好きだ。
好きで、好きで…どうしようもないくらい好きだ。
あんたもオレの事が、それくらい好きでいてくれればいいのに。
確信が、まだ持てない事が、オレにはちょっと苦しい。
でも、オレの事嫌じゃないんだよな。
オレとこんな風に抱き合って感じてくれる位には、好きなんだよな。
他の奴より、すごく好きだって言ってくれよ。
あんたが言葉で表現するのが苦手だって事は知ってるけど。
それでも欲しいよ、オレ。
あんたが言うなら、きっと嘘じゃないから。
本当に本当の事しか言わないだろうから。
「香澄、香澄…。ああっ」
オレに貫かれて、オレの下でコウが欲望を放つ。
快楽に震えるその身体を押さえつけ、オレは更に2,3度コウに身体を打ち付けると、同じように果てた。
「はああああ…」
「香澄、いやだ。抜かないで…」
動こうとすると、白い肌を上気させて、コウが更にオレの身体にしがみついてきた。
「もう少し…。もう少し、したい。…ダメか?」
欲情に潤んだ瞳がオレを見上げ、まだ挿入ったままのソレを直撃する。
「だ、駄目なわけないだろっ」
さっきイッたばかりだというのに、もちろんオレのモノは再びビンビンになっていた。
自分の中で大きくなったそれを感じて、コウがまた甘い声をあげ始める。
あああっ。
寮の部屋でもう一回ヤるのか?
今だって大きな声上げられて、ヤバかったって言うのに。
でも、だけど…。すごくイイ。
オレだってこんな気持ちいい身体からは、出ていきたくない。
第一もう、勝手にオレの腰は動き始めてしまった。
ああ、コウ。好きだ。
どうしようもないほど好き。
白い身体。
甘い声。
オレを受け入れて感じてる、その表情。
オレ、オレ、この状況に逆らえないよぅ〜〜。
結局、その後オレはコウに求められるまま、2度もいたしてしまったのだった。
そして、その夜オレは、とことん後悔した。
何故なら、ベッドは寝られたもんじゃなくなっていたからである。
当たり前だ。
男2人が三回もその上でエッチしちゃったのだ。
それだけきっちり励めば、ベッドなんてぐっしょりだ。
汗だけじゃなくて、当然ナニだってついてる。
オレはシーツを剥がし、マットレスをはぎ取り、掛け布団だけを身体に巻き付けて寝ころんだ。
コウが、自分の部屋のベッドを提供すると言ってくれたけど。
でも、朝コウと一緒の部屋から出勤なんか出来るかっ。
しかも、もう一度したくなったりしたら、どうする!(←しょーもない)
ううう…。
もうオレ、この部屋ではエッチしない。(←その決意が守られるのかどうかは大変怪しい)
そんで、濡れた布団に寝るのも、まっぴらゴメンだ。
どっかで布団干すぜ。
一度でも良いんだ。
もう一度、あのふかふかでふわふわの布団に寝るんだ。
そんな決意を心の中にしっかりと秘め、白鳥は眠りについた。
next
|