ジャングルの二人?



 コウが攫われてしまった。
オレ達は昨日の約束通り、ジャングルの中に探索に行った訳だが、なんつうか、さすが架空のジャングル。
ここは一体どの辺りなんだ? 
と首を傾げたくなるような、メチャクチャ奇天烈な動植物層。
いくら本物のジャングルを知らないからと言って、こんなんでいいのか。
物書きなら少しくらいは調べたらどうだ。
などというメタフィクション的なグチを言っちゃったりして。

いやいやいや。
確かに気にはなるが、今はオレ、そんな事はどうでもいいんだよう!
だってコウが攫われちゃったんだ。
オレが僅かに目を離したスキに。
音がしたんで振り向いたら、もう何者かに抱え上げられて、コウは木々の向こうに攫われていく所だった。

わああああーっ!
返せ、戻せーーーっ!!
喚いたって無駄だ。影はあっと言う間に木の間に隠れて、見えなくなってしまった。

畜生。
今のコウってば、普段の3割り増しで色っぽいんだもんな。
そりゃもう、誰でも触りたくなっちゃうってもんだぜ。
…って、想像するのもイヤだが、やっぱりそういう感じで攫われたんだよな。
どう考えたってそうだよな。
だって、だってこの話は
ボーイズ・ラブ  だもん。
エッチ目的いっさい無しで攫われた、なんて展開は読者が納得しない。
それはミステリー小説で、事件が起こらないのと一緒だ。
そんなんダメだ。ダメに決まってる。
誰だよ! コウを受キャラと見抜いて攫っていったヤツは!

あああっ、どうしよう。
今ごろコウは、でっかい××を何本も突っ込まれて、『まだ欲しいのか?』とか、『ああ、いやらしい躰だ』なんて言われているんだようー(涙)
やっぱあれか。
たとえ体術の天才でも、一度受キャラと決まると、そんな能力関係なく、いざという時はあっさり攫われちゃう運命ってことか。
ああ、なんと悲しき受キャラ。
受と決まったその日から、どんなに腕に覚えがある男でも、くるくる輪姦されちゃったり、さくっと攫われちゃったりする運命からは逃れられないのか。

あかん、妙な悲劇に落ち込んでいる場合ではない。
オレはその受の恋人なのだ。
どんなにたくさんの人間に穢されようと、最後に抱きしめて、真実のセックスを教えてあげるのは、自分の役目なのだ。
周りの奴らがどんなに羨ましがったって、お前らは、指をくわえて見ているしかできない。
コウのメチャクチャ具合のいいアソコ真実の心はオレのものなんだもんね。
追っかけるんだ香澄!

定番から言ってオレが見つけた頃には、コウは既にみんなから(もう複数と決めつけている)味見されちゃった後だろうけど、それでも追いかけてコウを取り戻さなくてはならない。
どこをどう捜していいか解らないけど、オレはラッキーなんだから。
刑事のカンをナメるなよーっ!

 

 

 黒羽はといえば、彼には彼の言い分があった。(←聞きたくねえぞ! 絶対にくだらない事だからな。by香澄)
実は彼は、人に道を聞かれてしまったのであった。
白鳥が僅かに先に行ってしまい、一瞬自分はジャングルの中で一人になってしまう。
あれ、香澄は? と思った時だった。
突然声をかけられたのだ。

「あのー、駅はどっちでしょう」

振り向くとそこには、全身を木や草で覆った人のようなものが立っていた。
頭からすっぽりと草の繊維で覆っているので、顔はまったく見えない。
だが、人だろう証拠に、足はにょっきり見えていた。
黒羽は首を捻って答える。
「駅は、ちょっと解りません。僕もここに来たばかりなので、地理がよく解らないのです」
どう思われるかは個人の勝手だが、黒羽は、これでも一応真剣なのだ。
「そうですか…困ったなあ…」
その人は(たぶん人だろう)とっても困った様子で頭(だと思える辺り)を下に向ける。

困っている人がいたら、助けなくてはならない。
黒羽の心の中に、警察官としての使命が湧き上がってきた。
かつて交番勤務だった時には、それこそしょっちゅう、休む間もなく人に道を聞かれたものだった。
同じ女の子が何度も
『さっき聞いたんですけどぉー、また道が解らなくなっちゃったんでぇー、今度はもっと丁寧に教えていただけますかぁー?』
なーんてうっとりと顔を見上げながら、聞きに来たりした。
おかげさまで、安いトレーナーを売っている店とか、ブルドッグを5匹も飼っている小林さん家とか、金曜日になると投げ売りをする花屋さんとか、そういう場所をとっても良く覚えてしまった。

そんな自分が、基本の『駅』の場所が解らないなんて、それはあまりにもあまりだという感じがするではないか。
解らなくても、ある程度は一緒に捜してあげるのが、自分の義務では無いだろうか。
「えっ、一緒に捜してくれますか?」
その人はとっても嬉しそうに(たぶん)黒羽の手を取った。

人に必要とされている。
黒羽にとって、これ以上大事な事はない。


そーいう訳で
黒羽は今、草男(名前を知らないのでそう呼ぶことにした)の家にいるのだった。(←何故!? 駅を探していたんじゃなかったのかよっ! by香澄の突っ込み)
ここは無人島じゃなかったのか、というご指摘も、とりあえずは、まあまあ、まあまあ。(←何がまあまあかっ!)
丸木で造られた家の中、やはり木で造った椅子に座って、黒羽は茶なんかしばいていた。
乾しフルーツのお茶請けまで出ている。

「どうもありがとうございました」
草男が頭(だと思う)を丁寧に下げた。
「いえ、結局駅は見つからなかったのですから」
黒羽は残念そうに首を振る。
「とんでもないです。一緒に捜してくださっただけで感謝してます。見つからない事には慣れてます。そのうちまたチャレンジしますから」
黒羽は茶をすすりながら男を見上げる。
「駅をお探しになって、もう長いのですか?」
「ええ、かれこれ15年になりますか」
「で、まだ見つからない」
「まあね」
草男は寂しそうに微笑む。(たぶん)
「でも私はあきらめません。必ず駅はあると思うのです。希望がある限り、私は探し続けるつもりです」
「頑張ってください」
黒羽は重々しく言った。

だんだんシュールな話になってきたが、いちおう両方ともマジ会話である。
しかし、それだけ捜して見つからなかったら
そろそろ『駅はない』という方向の検討も、視野に入れて良いと思うのだが
どうやら草男の頭の中には『無い』という選択肢は存在しないようだった。
(呆れたことに、黒羽の頭にも浮かばないらしい。
もっとも黒羽は『駅探し歴2時間半』のキャリアしか持っていない新米なので、その辺はご理解をいただきたい)

「捜してくださったお礼をぜひ」
黒羽は首を振ったが、せめてお茶でもと大変熱心に誘われたため、なんだか無下に断るのも悪いような気がして、ここについて来てしまった。
しかしそろそろ帰らなくちゃな、と思う。
今さら気付いたが、香澄に何も言わないで来てしまった。
心配して捜していること間違いない。
あまり遅くなると、香澄に怒られてしまうだろう。
ずっと独りだった黒羽は、香澄が自分を心配して怒ってくれるのが、何となく嬉しかった。
だがさすがに本気で怒られたら辛いし、こんな事で怒られるのもくだらない。
「くさ…じゃなかった、ええと、あの、あなた。僕はそろそろ帰りますから。駅見つかるといいですね」
「ええ? もうお帰りですか? これからお礼をしようと思ったのに」
「お礼はいいですよ。結局見つからなかった訳だから…」

あれ?
体がまっすぐにならない。

立ち上がりかけた黒羽の体は、ぐらりと傾き、もう一度どさりと椅子に座ってしまう。
「おかしい、まさか、なにか……お茶、に?」
体が熱い。
運動機能は鈍くなっているのに、触覚は妙に敏感になっている。
これ…は。
この感覚には覚えがあった。
そっくり同じではないが、自分はこの類の薬を、何度も使われたことがあった。

「催淫剤…」
「ええ、そんなものです」
「どうして…」
知らない人間に差し出されたものを、疑いもしないで口に含んだ自分がバカだった。これが毒だったら、とっくに自分は冷たくなって、地面に転がっていたことだろう。
しかし今の自分の体は、冷たくなる代わりに、まるで内側から熱がうねって吹き出してくるようだった。
「あ…ああ」
がくりと膝が落ちる。

「お礼をしようと思いまして」
男は別にまったく悪い事をしているとは、思っていないようだった。
「私はお礼するべきものを何も持っていないので、気持ちよくしてあげようと思いまして。遠慮は無用です。ほんのお礼です」
そう言って男はかぶっていた草を体から取り去る。
もちろんその下は、すっ裸だった。
そして男のそれは、すでに熱く勃ちあがっていた。

誰かに一服盛られてやられてしまう。
もちろんこれは、ボーイズラブなら定番の一つだ。
そう、ボーイズラブの道は、狭いようで広い。
っていうか実際の所、ものすごくたくさんの人が歩いているので、すっかり踏みならされ、整備された美しい道なのだ。
だからもう、歩けば定番パターンにぶつかるってものである。

つーわけで、今さら定番程度に臆していてはいけないのであった。


…いい訳はこの辺にして。

 場所変わって、香澄はジャングルをあてもなく彷徨っていた。
とりあえずコウが連れられていった方向だけは見た。
でもまっすぐその方向に行ったとは限らないし、第一自分は、そう。
『方向音痴』 なのであった。
しーくしーく。
既に自分はどの辺りをどう歩いているのだか、サッパリ解らなくなっている。
なんだかコウと寝てた元の海岸にも、すでに戻れそうもない。
これは、本気でコウを見つけださないと、自分は迷い続けたまま、ぐるぐると彷徨って、あたら若い命を無駄に費やしてしまうだろう。

「でええーい、畜生。コウもコウだよ。攫われたんなら、なにか目印を落としながら攫われてくれたっていいだろうに」
実は黒羽は自主的についていった訳だが、もちろんそんな事は、白鳥は知らない。
迷いながら、ぶつくさ文句を言う。
「ヘンゼルとグレーテルは何だっけ、パンくずだっけ? パンくずは食われちゃうからダメだったんだよな。でも何か目印思いつかなかったのかよ」
ヘンゼルとグレーテルがパンくずなら、コウならたとえば、そうだな。
使用済みコンドームとか。(←ヤリながら移動したのかよ、それって。とほほ。紳士で野獣?)

「ああ、考えたら頭痛くなってきた」
世の中には、バカの考え休むに似たり、という大変含蓄のある言い回しが存在する。
「よし、どうせ道が解らないんだ。棒の倒れた方に、オレは行くぜ!」
白鳥は地面から棒っきれを拾って、倒れた方に行くことにした。
「オレは運がいいんだ。絶対見つかるって。じ、時間はかかるかもしれないけど…な」

コウはその間に、くるくる輪姦されちゃうんだろうなぁー…
(↑やはり勝手に相手は複数だと思っている)
そんな事をぼんやり思いながら、白鳥は進んだ。

そして。
結論から言えば、その判断は正しかった。
そう、 バカは考えないのが正しい!  白鳥はラッキーボーイだったのだ。

ジャングルの中に突然現れた小屋を、白鳥は見つけちゃったのだった。

 

 

「綺麗だ…」
男は余り動けなくなった黒羽の体を床から起こすと、破れた服の間から手を差し込んで、肌に指を滑らせる。
「こんなに綺麗な人は初めてです」
男はうっとりと黒羽の体に手を滑らせ、やがて敏感な部分に触れる。
「…っ」
声を抑えることが出来なかった。
黒羽の体は男とのセックスに慣れており、触られただけで簡単に反応する。
その上今は薬で、体中が更に敏感になっていた。
「あ…ああっ」
指でまさぐられただけで、すぐにイキそうになる。
男はそれを上手に調節して、黒羽の体を追い上げていった。

「本当に、なんて綺麗なんだ。まさか改造とか、してます?」
男はうっとりと黒羽の顔と身体を愛撫する。
「改造…? はっ、あああっ…」
「私のアレは、実は改造してあるんです。ちょっと凄いですよ」
黒羽はもう喋ることが出来ない。
微かに目に涙が滲んだ。

セックスをすること自体に屈辱感はない。
男とのセックスは、ゲイの彼にとって当たり前のことだったから。
だが、薬でいいようにされる事には抵抗があった。

前に自分に薬を使ったのは冬馬涼一だった。
黒羽はいつでも彼の言うとおりに体を開き、彼の望むことならどんなことでもやったものだった。
いま考えると、なぜそこまで彼に執着したかったのか解らない。

薬は、嫌いだった。
体中が熱くなって、訳が解らなくなる。
気持ちいいと言うより、狂って堕ちていく感覚。
体は快楽に悶え、心はどこまでも堕ちていく。
自分の感覚を素直に受け取ることが出来ない。


「嫌…だ」
呟きが漏れる。
男はきょとんとした顔をした。
「でも、体は欲しがってますよ」
「僕は、嫌だと…言っている」

この男を…。

黒羽は男を睨みつける。
体の熱さとは別の何か怒りのようなものが、心の中にせり上がってくる。

この男を…殺すのは、難しく…ない。

簡単だった。

簡単。
男の体は無防備だったし、喉もがら空きになっている。
開いた眼球の奥まで指を突っ込めば、簡単に男は膝をつく。
体は上手く動かないけれど、麻痺している訳ではなかった。
悲しいことに黒羽は、このテの薬がどう働くのか、体で知っていた。

薬の効果も、人を壊すやり方も、冬馬涼一に教わった。

心の中の禁忌が薬によって柔らかく緩む。

身体が熱い。


僕は…。

黒羽の手が微かに上がって、男の身体を狙った。

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