秘密のリゾート後編
第一章 「ふたたび2人−夜はこれから」
「やっと行った…」
なんとなく白鳥はため息をついた。
とっとと撮ってさっさと帰れって思ってから、もう3時間以上もたっていた。
ちーっとも早くない。
せっかくコウとの貴重なお休みだったってのにさ。
でもまた、やっと二人きりに戻った。
ううん、ホテルの中庭だから、ちょっとギャラリーが多いか。
やっぱり誰でも一度はコウの顔に目をとめるからな。
コウもちょっと疲れたみたいだった。
「ああっ!」
オレは気付いて思わず叫ぶ。
「何?」
「さっさと日陰に戻ろうぜ。また更に日焼けしたらどーするんだよ」
「そうだな」
黒羽は立ち上がり、にっこり笑って白鳥の手を握った。
「?」
少し不思議に思いながらも、なんだか嬉しくてその手を握り返す。
ううん…。いいなあ。
男でも挨拶にチュウが出ちゃうような連中に囲まれてると、人目がある所でも、こんな事があっさり出来る。
唇にキスしても、この南国のゆったりした時間の中では、きっと特別な事じゃない。
オレはちょっと目を伏せて歩くコウの顔を見上げた。
コウ、なあ…。
言わないけどさ。
さっきトイレの中で何かあっただろ。
嘘とかごまかしが下手なんだもん。あんた。
そんな素直で、よく刑事とかやってるって思うよ。
疑う事が仕事で、時にはどんないい人に対してだって、氷のように振る舞わなくちゃならない。
銃を向けて、いざとなったら人を撃つ。
どうしてそんな世界で生きていけてるのか、オレはやっぱり不思議だよ。
冬馬涼一がいなかったら、あんたはもしかしたら、そんな苦しい世界にはいなかったかもしれないよなって思う。
普通に大人になって、頭もいいんだし、両親みたいな研究者になっていたかもしれない。
そうしたら、もっと平和な人生だったよな。
内省的に考えるとこなんて、研究者に向いてたかもな。
白衣だってきっと似合う。
オレはちょっとだけ白衣のコウを思い浮かべてにやついた。
白衣にメガネ、研究室のコウ。
オレはメガネを指で摘んで取って、白衣の重ねから手を差し込んで…。
最初は抵抗するけど、コウの目がゆっくりと閉じていくんだ。
オレはそのまま仮眠用のソファーにコウを押し倒して、白衣のボタンを外して、下のシャツをはだけて、胸に舌を這わせて…。
乱れた白衣の上に、コウの白い喉がのけぞる…。
うううう〜ん。
悪くな〜い。
……………………………。
はっ。
一瞬白日夢を見てしまった。
ダメじゃんオレ。
もしもコウが研究者になってたら、オレホテルの火事で死んでたじゃねえか。
それは絶対ダメダメダメ。不許可だよ。
火事が無くてオレが死ななくても、コウは研究室で、オレはそのまま楽しく旅行から帰っただけ。
やっぱりそれじゃ、一生オレはコウに会えない。
うん。なんかちょっと悲しいけど、コウがこんな風だったからこそ、オレ達逢えたんだよな。
一緒に仕事もやって、あんたにはやっぱりそれ程似合う世界じゃないとオレは思うけど、それでも毎日きちんと仕事してる。
苦しい事だってあるけど、それは2人いれば何とかなるだろうって思う。
だから、下手な嘘にも誤魔化されてやってもいいぜ。
そのぎこちない嘘が、あんたなんだもんな。
もっともオレのカンだけど、海里とは何かあったけど、最後までは行ってないって踏んだね。
だからまあ、こんな優しい言葉も出るってもんなんだけど。
最後まで行ってたら、いかにオレが心広くても、絶対ぶん殴ってたと思うし。(海里をな!)
何で行ってないって思うかって。
そりゃー、その…。
だってコウが手でも口でも何でもいいや。
一度でもイッてたりしてみろ。
もうコウのイッた直後ってメチャクチャ色っぽいんだぞ。
誰でもぐらりと来る。保証する。
きっぱり言っちゃいます。
あのトイレで個室から出てきたコウの顔が、そういう顔だったら、オレそのまんまコウをトイレの中に押し返して、そのままヤッちゃってます。
またトイレかよ、と心の中から激しい突っ込みが聞こえますが、それでもイッちゃいます!
あの顔見て勃たねえヤツは男じゃねえ!
海里が見てたって構うもんか、だぜ。
だから、結論として、もしかしたらヤバいとこまでは行ったかもしれないけど(相手はあの海里だしな)行くとこまではいきませんでした。
手でも口でも、もちろんあそこでもッ。
…はあ。ぜえ。
妙な所にリキ入れて考えてしまった。
もちろんこれからちょーっと海里には気をつけなくちゃ、とは思うけど。
まあ今日の所はあいつも帰ったし。
コウと手なんか繋いじゃってるし。
いいかいいか。
あいつの事なんて考えてたらソンだよ。
だって、せっかくまた二人っきりに戻れたんだもんな。
「さっき朝食だったのに、もう昼じゃん。今日、どこか観光に出てもいいかなーって思ってたのに。なあ、コウどうする?」
黒羽は首を横に振った。
「お昼はホテルで適当に食べて、部屋に戻ろう。2人になりたい」
「オッケー」
思わずにっこりしちゃうね。
もともと二人っきりになりたくて企画した旅行だもん。
ガツガツ観光とかしないんだ。
いつも忙しいんだから。のんびり休暇を楽しみたい。
2人でだらだら昼寝したり、フルーツジュース飲んだりして贅沢に時間を過ごそう。
結局オレ達はホテルのレストランで、『おすすめシーフードコース』なるものを頼んで食べた。
エビに魚に貝に、山盛りのシーフードとスープとサラダがどさどさとオレ達のテーブルに運ばれる。
テーブルに載りきれない程の食い物って、なんだか幸せの印みたいに思えるのってオレだけ?
でっかいロブスターをちょっとピリッとするタレでいただく。
うむむむむ。メチャクチャ美味いー♪
「なあなあ、夜のためにさあ、ディナーの予約をしとこうか。頼めば個室でサービスありだった筈だよ、確か」
オレはごきげんでパンフレットをめくった。
「いつの間にそんなものとってきたんだ…」
黒羽が呆れたように言う。
気がつくとそういうものを、手にスラリと持っている。
白鳥の素早さは、いつもながら手品のようだと黒羽は思った。
「個室とかディナーとか、お金かかるんじゃないのか?」
「コウ、なに言ってんのさ。こういう時金使わないでどうするの? それに物価が安いの、日本よりずっと。だから大丈夫♪ なっ。オレ達の部屋だってプールつきじゃん。後で入ろうぜ」
白鳥の勢いに押されるように黒羽はこくりと頷いた。
「まあディナーは最後の日でもいいか。おっ、オレ、この鶏肉のオムレツも注文するわ。ちょっと肉食わないとな、肉」
「食べきれるのか?」
「余裕だよ、これくらい。高校で運動部だった頃は、もっと食った。でもそういえば、コウって体のわりに食わないよな」
「食べてるよ」
言いながら黒羽が美味しそうに口に運んでいるのは、エビのクリームスープだ。
「前に中華食いに行った時も思ったけど、コウってもしかしてエビ好き?」
「ああ、そうかな。子供の頃そういえば、エビフライが好きだった」
「だったって、今は?」
コウは首を捻って答えた。
「何でもいい…。と言うか、ずいぶん長い間、食べ物の好き嫌いなんて考えた事がなかったような気がする。どんなものを食べても、あまり美味しいとも不味いとも感じなかった。そういえば不思議だな」
スイカのフレッシュジュースを一口飲んで、少し幸せそうにコウは呟いた。
「食べ物が美味しいって、最近時々感じる」
「いいじゃん、それっていい事だよ。うまいご飯があって、ぐっすり寝られれば、オレなんか80%くらい人生幸せな気分だぜ」
「そうか、じゃあ残りの20%は何だ?」
黒羽の問いに、白鳥はにっこり笑って答えた。
「そりゃー、これから部屋に戻っていい事すれば解るかも…」
広いベッドに二人して倒れ込み、だらだらと午睡を楽しむ。
オレは時々目を覚まして目の前にコウの寝顔があるのを見ると、また安心して目を瞑った。
長い睫毛が整った白い顔に影を落とす。
規則正しい寝息がオレを眠りの中に引き込んでいく。
うつらうつらと寝て過ごす午後。
オレの隣にコウが寝てる。
手を伸ばさなくても、そこにいる。
なんかとっても、ほんわかと幸せな気分だった。
「コウ、ほらほら口開けて」
「やめろよ」
南国と言えばフルーツ。
ホテルの部屋に積んであったウエルカムフルーツを、オレは冷蔵庫にどさっと放り込んでおいた。
マンゴーとパパイヤとパイナップルとバナナ。マンゴスチンに、ランブータン。オレは名前を知らないんだけど、なんだか青いリンゴのような南国果実。
その色とりどりの果実を引きずり出して、オレはコウに食わせようとしていた。
しかも、ふっふっふ。
「オレが食べさせてやるから口開けて。はーい、あーん」
「香澄、冗談だろう?」
「いーじゃん、誰も見てないし、やらせろよ」
そう、普段恥ずかしくて出来ない事をやってやる。
こーいうのが南の島の開放感ってヤツかなっ。
「食べて、食べて、ハイ」
ベッドの端に腰掛け、上目遣いにオレを見上げながら、それでもコウは口を開けてマンゴーをほおばった。
「ん…」
人に食べさせて貰うのだから上手くはいかない。
コウの唇から飲み込みきれなかった果実が溢れて滴る。
うう〜ん。思ったよりイヤらしい。
そんな風に、オレのモノもぜひ…。
なーんてちょっぴりエッチな気分になりかける。
したらコウは、なんとなくオレの気分を察したらしかった。
唇の周りをペロリとなめると、やっぱりマンゴーの汁だらけになってたオレの手を舐めはじめた。
手のひらの上に熱いその舌をゆっくりと這わせ、潤んだ目でちらっとオレを見上げる。
それから今度は指を咥えて、その一本一本に舌を絡めてしゃぶりだした。
うわあああ〜………。
なんつうか。
唇がきゅうーっと吸い付いて、舌がちろちろとオレの指をくすぐって、その…。
た、たまんない。
望み通り二人っきりで午後中眠りこけていたオレ達は、夜になっても全然眠くない。
ていうか、昼間散々海里に邪魔されちゃった分、これからが本番って感じ?
なのにコウの奴、背中がまだダメなんだよな。
エッチな気分がぐぐーっと盛り上がりかけてたオレは、まだ赤く腫れた肌を見て、思わずため息をつきそうになった。
…どう見てもまだ痛そうだ。
いつもならこのまま押し倒して突入! って所なんだけど…。
この日焼けのせいで、オレの『リゾートラブラブ計画』はかなりの変更を余儀なくされている。
もっともオレの計画って、あんまりまともに成功する事って無いけどな。
そこまで思った時だった。
オレの指を綺麗にしゃぶりあげたコウが立ちあがると、今度は逆にオレを座らせた。
「ええー? もうお終い?」
口を尖らせるオレの耳元に、コウは唇をつけた。
そのまま舌を耳たぶに這わせて囁く。
「違うよ。選手交代」
ええ? コウ何だかすごくその気になってない?
瞳もさっきから妙に熱っぽいし。
こ、これって今日もダメだと思ってたけど、ももも、もしかして…何か期待しちゃってもいいって事?
コウはベッドの上、オレの真後ろに回ると、ぴったりと体を寄せてきた。
「振り向いちゃダメだ」
後ろから耳元で囁かれる。
ちょっと掠れた色っぽい声。
「ええっとぉー…」
オレはいつもと違うコウに戸惑いながらも、期待で胸はドキドキだった。
コウは真後ろからオレの体に手を伸ばす。
手はシャツをたくし上げ、胸を這いまわりながら腹の下に落ちていく。
振り向く事を禁じられているので、オレには体を這い回る白い手しか見えない。
手だけがイヤらしくうごめいてオレの体を探っていく。
まるで独立した生き物みたいだ。
その動きに、オレは妙に興奮した。
手は焦らすようにしばらく下腹付近で動いていたが、もちろんそのままするっとトランクスの中に忍び込んでいった。
そして、すっかり勃ち上がってレッツ・ゴー状態のオレのナニに、その長い指を絡みつかせる。
「…っ。はあっ…」
ううう。思わずため息がでてしまった。
コウ上手すぎ。
指テクだけでイっちゃったらどうするんだよ。
コウのセックステクニックって、なんかすごいんだよなあ。
オレはそりゃー、あんまり比較対照を知らないけどさ。でもやっぱりかなりなもんだと思う。
きっとめちゃめちゃ経験豊富なんだよな、って考えるとちょっと嫉妬入っちゃうけど。
でもでも、今はオレのためにだけ、そのテク使ってくれてるんだよね。
「香澄…大きい」
耳元でコウが囁く。
オレのを触りながら、コウも興奮してきたみたいだった。
首筋に甘い息がかかりはじめる。
顔は全然見えないけど、ぴったり張り付かれてるんで、背中にコウの硬くなったモノがあたる。
コウの欲望を感じて、オレはますます元気になってきてしまった。
ううむ。毎度思うけど、男のナニを押しつけられて興奮するのって、オレも立派なホモだよな。
いやもう、もちろんコウのモノ限定だけどね。
後ろから手を伸ばしてきてるんだから、今コウだってオレの顔が見えない。
お互いに感じてるのは、相手の体の熱さだけ。
息と体温とあからさまな欲望の徴。
ううん…。
相手の表情が見えないのって、場合によってはこんなに淫靡なものだとは知りませんでした。
コウの手がトランクスを脱がそうと動く。
もちろんオレも協力協力。
こんな布きれちゃっちゃと取っちゃって、続きいきたい。
オレはもう興奮しながら、後ろのコウに、無理な体勢で手を伸ばした。
コウだってぬ、脱ぐんだよな。当然。
ここまで来たら、もちろん行くとこまでいっていいんだよなっ。
日焼けの事は、白鳥の頭から綺麗サッパリ忘れ去られている。
しかしその手から、黒羽はするりと逃れた。
「コ、コウ?」
「僕に触っちゃダメだ…」
「ええええー?」
「痛いだろ? だからダメ」
「うっ…。日焼け。ええ? でも、そ、それじゃあ?」
「絶対触るな、それがルール」
言いながらコウは後ろでシャツを脱ぎはじめた。
「守ったらちゃんとしてやるよ…」
ちゃんとしてやるよ…。
妙に色っぽい声で囁いたコウは、今オレの前に回って膝の上でストリップを演じていた。
シャツをするりと脱ぎ、下も焦らしながら脱ぐ。
オレはもう、至近距離でそれを見つめる。
み、見るだけなんだぜ、手ェ出しちゃいけないの。
オレは座ったまま、それこそ指一本動かせない。
白くなまめかしい肌が目の前でくねる。
微かに唇が開いて誘いをかける。
すっげー色っぽいコウを目の前にして、いやもうオレは、地獄なんだか天国なんだかよく解らなくなってきた。
最初はオレ、このままご奉仕受け続けてていいの?
なーんて思ってたんだけど。
あああ。手ェ出せないのがこんなに辛いなんてーっ。
触りたいっ。
オレ実は触り魔なんだよっ! (/≧◇≦\)
そりゃーもう、オレがどれだけ長い事、コウに触りたいって思い続けて過ごしてきたかを考えると、触り魔上等!
なって当然、って気もするけど。
手がダメなら、舐めちゃダメ?
ち、ちょっとだけ、その誘ってる薄い乳首の辺りとかさあ…。
しかしコウはまるで見透かすように笑うと、膝の上に軽く腰掛けてオレに被さるようにキスしてきた。
「ん…んんん」
コウから触るのはいいみたい。
キスはオレ好き。舌を絡ませながら思う。
いっぱいキスするの好きだ。セックスより、ずっと恋人らしい。
手を出せないオレは、そりゃもう積極的にキスに応じた。
でもやっぱし手を出してくるコウの方が主導権を握る。
左腕を背中に廻して唇を貪りながら、コウは膝の上で軽く腰を浮かした。
そして空いた方の手をオレの勃ちあがったモノに添え、その上に腰を落としはじめる。
「うっ…あ…。ふう…」
完全に暴れん坊将軍になっていたオレのナニは、ゆっくりコウの中に沈んでいく。
キツくて、熱く濡れてるコウのアソコ。
ううう。すごくいい。
やったー。ついにコウと合体。
不注意の日焼けのせいで、まだもう少し出来ないと思ってたのに。
口とか手でもいいけど、やっぱりコウのここは最高。
「はあっ…」
だけどコウは少しだけ苦しそうだった。
さっき後ろにいる時に準備してたみたいなんで(相変わらず手際がいいって言うかなんて言うか…)別に入らないとかすごく痛いとか言う訳じゃないみたいだ。
でも、自慢する訳じゃないんだけど、オレのってちょっとでかいんだよね…。
特に今はなんつうか、触れない分だけ興奮してるってーか、余計張り切ってる感じ。
「か、すみっ…」
掠れ声で名前を呼びながら、それでもコウはオレのモノを全部納めると、ゆっくり動き始めた。
「ああっ。あ、あ…」
オレにしがみつくようにして腰を動かす。
「ん…んん」
コウの勃ちあがったモノがオレの腹に擦れる。
「コウ…なあ、コウ。これも触っちゃだめなのか?」
「ダメ。香澄は絶対…触…るな。ああっ…」
見るだけ。
いや、コウの中に挿れてる訳だけど、でも見るだけ。
いつもならもう、とっくにむしゃぶりついてる所を、禁じられてるもんだから、オレの神経はすべて瞳に集中している。
コウの欲情した表情。イヤらしい動き。
「ああっ。あっ、あああっ…」
何かすごい。めちゃめちゃエッチな顔。
オレ、とっても、こ、興奮して来ちゃったんですけど。
触れるもんならそりゃ触りたいけど、でもこんな扇情的なコウが見られるなら、こういうのも悪くないかも…。
コウの白い身体がオレの上で跳ねる。
あっ、コウ、そんなにしたら、オレ。すぐイッちゃいそうだ。
だってオレ達、ちゃんとするのって久しぶりじゃん。
久しぶりに香澄のものを味わう。
やっぱり大きい。身体が慣れてなくてちょっと苦しい…。
こうして身体に入れてみると、結構してなかったんだな、と思う。
だが彼に跨って動き始めると、自分がいかにこの行為を求めていたか、よく解った。
恥ずかしいくらい勝手に声が出る。
「かす…みっ…。いい、あ…」
体中が満たされる、この感覚。
自分のものが香澄の腹の間で擦れて、痺れるような快楽をもたらす。
自分で思っている以上に昼間の気分が残っていた。
セックスがしたい。
男に貫かれたい。
海里と途中でやめた時の欲求不満の残りが、身体の奥でくすぶって疼いている。
香澄が自分の下で、言われた通り手を出さずに耐えていた。
「はあっ…はっ、はあっ…コ、コウ?」
「いい? 香澄」
「い…すごくいいけど、でも…」
時々触りたそうにちらりとこちらを見るが、自分は首を横に振る。
「香澄のも、すごくいい…」
言いながらだんだん早く腰を動かす。
ベッドが激しく軋んだ。
「あっ、コウっ。あっ…」
香澄に身体を触らせないでセックスする。
昼間考えた苦肉の策だが、ちゃんと交わっているにもかかわらず、半分くらいは単に彼の前で媚態を晒しているだけのような気がしていた。
変な気分だ。
それは香澄がぎらぎらした目で自分を見ているからだと解ってはいるのだが。
その視線にも犯されている感じがして、妙に興奮する。
香澄に触って貰うのはすごく好きだから、いつもしたい訳ではないが、でも自分の身体を香澄が欲情した目で見つめるのは、ある種の快感があった。
ゲイなんて汚い行為だと思っていた。
セックスの欲望には罪悪感が伴った。
でも香澄が欲しいなら。
香澄が僕を欲しいなら…。
香澄ならいいよ。かすみなら、いい。
海里とは出来なかった。
身体はすごく欲しがったけど、それを聞いたら香澄は怒るだろうけど、でも香澄が一番欲しいよ。
君は僕でいいのか?
僕が欲しいのか?
「コウ、コウ、オレッもう…うっ…」
息を詰めて体を反らし、香澄が自分の中で欲望を放つ。
「あっ…」
それを感じながら、自分も香澄の腹の上に射精した。
思わず香澄に抱きつき二人してベッドの上に倒れ込む。
「はあっ…。はあ、はあっ…」
「コウ」
「触っちゃ、ダメだぞ」
香澄の上に被さりながらゆっくりと目を瞑る。
「コウ、好き…」
荒い息の中、香澄がぼそりと呟いた。
その言葉は、心と身体の中にじんわりとした快楽の波を広げていく。
香澄…。
すごく気持ちいい…。
君はどうして一番欲しい時に一番欲しいものをくれる事が出来るんだ?
「コウ、もっとしたい。オレ、もっと欲しい…」
「入ったままじゃないか」
くすくす笑いながら、身体の中で再び体積を増してきた香澄のものを感じて腰を動かした。
「うっ…」
「僕だって香澄が欲しい」
「ホント?」
香澄の髪をなで、唇にキスする。
汗と、ほんの少しマンゴーの味。
南国の果物の、いつもと少し違う世界の、甘い味。
「夜は長いよ」
「このまま朝までする?」
「絶対触らずにいるんだぞ」
「うっ…厳しい、かも」
「でも、もう少し、しよう」
黒羽は笑うとテーブルの脇からローションの瓶を取り上げた。
「あっ、それっ」
言葉を塞ぐようにキスをする。
「媚薬入りローション。何で驚くんだ? 入ってたのは香澄のカバンだぞ」
「ええっとー、それはとっておきでぇー…」
「これつけて、したかったんだろ? これでイク僕が見たかったんだろう? いいよ。僕もすごくしたい気分だし。だからしよう。もう一回…」
「一回で、す、済む、かなあ…?」
「じゃあ、香澄がもうできないって言うまで」
「コウがもう勘弁って言うまでだろ」
「じゃあ、そうしよう…期待してるよ香澄」
「よーし、絶対啼かせてやる」
2人は笑いながらもう一度重なり合った。
朝はまだ、もう少し先だった。
next
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